大旅団
街道をゾロゾロと奴隷馬車の列が進む。
だが、彼らの誇る教団兵は減っている。ほとんどが馬車で呻くか石化して転がっているかマヒして呻く事も出来ないでいるかだ。
教団の魔術師が治療するにも魔物との戦いで回復する魔力がなく、ポーションは売り切れていたし、馬車で回復したと思ったらなぜか再び具合が悪くなるという怪現象が起こっているのだ。
代わりに馬車を守るのは冒険者たちだ。馬に乗った数名の無事な教団兵と共に歩いている。
と、聖教国に近付いて行くと、それが現れた。
「魔物だ!!」
ドドドと地響きを立てて、魔物が種類も関係なく、先を争うように走って来る。
こんな光景は氾濫以外に見た事がないと、古参の冒険者も目を丸くした。
「や、やり過ごせればいい!私、私を守れ!」
司教は引き攣った声で言いながら、姫様のいる奴隷馬車に転がり込んだ。
「まあ、木でできた馬車より鉄の檻の方が強度はあるよな」
僕が言うと、幹彦は、
「鉄くらい簡単にひん曲げるやつは多いぜ、魔物には」
と笑い、聞こえたらしい司教は情けない声をあげて失神した。
僕は空に向けて炎の矢を打ち上げた。
それで魔物はなぜか方向を変えて大きく弧を描いて戻って行く。何頭かの魔物だけと交戦する事になっただけだ。
魔物達を見送って、震えていたヨハンがポツンと言った。
「最後尾にいたのは、フェンリルとフェニックスだったか?」
「さあ、出発しましょう」
僕は司教に声をかけた。
しばらく行くと、街道は山の間の谷になる。
「ん、何か音がしねえか」
幹彦が不意にそう言い、一行は足を止めた。その途端、片方の山の上から、岩が落ちて来た。
「危ない!」
一行は足を早めて谷を通り抜けようとした。
しかし岩は次から次へと降って来て、奴隷馬車に乗せられた者も司教も、悲鳴を上げる。
どうにか谷を通り抜けた後、一行は青い顔で岩だらけになった背後を振り返り、誰からともなく言い出した。
「やっぱり、祟られてるんじぇねえのか、これ」
「こんなに落石が起こるわけはないし、盗賊にしたっておかしいぜ。人間じゃできねえよ」
「じゃあ、何だ。神様ってことか?何で?」
「それは……」
そして自然と、視線は奴隷馬車へと向けられる。
崖の上を調べさせた司教は、報告を聞いて震えていた。
盗賊がいたあとでも見つかると思っていたのに全くなく、それどころか、崖の上は木々が生い茂っていて、岩を運ぶような隙間が無いというのだ。
「あの岩は、誰がどうやって落としたというのだ?本当に……いや、まさか……」
ヨハンも顔色を悪くしながら言い添える。
「教主様が神の声をお聞きになってした事です。神が怒るわけがございません、司教様。ここは、早く聖教国に入る方がよろしいかと」
「そうだな。急がせよう」
彼らはそう決めると、眠れない気がしながらも、取り敢えず横になったのだった。
そうして翌朝、明るくなったかどうかという時間に、一行は出立した。そして、できるだけ急ぎ足で街道を進んで行った。
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