作戦会議
「聖教国ってのは、かなり力を持った国なのか」
僕達は彼らと人気のない畑の中に来て話していた。
助ける義理はなかったのだが、教会の塀の内側で奪還しようとする者を待ち構えるように警備している教団兵の気配を幹彦とチビが捉えており、奪還成功率も誰かが生き残る確率もゼロだったので、聖教国に感じるものがあったため口を出す事にした。
最初はこちらを警戒し、疑っていた彼らだが、どうやら信用してくれたようだ。
「まあ、教団兵の数も多いし、強い。何より、神の為、教えの為ならばと、死をも恐れないからな。それが厄介だ」
彼らのリーダーが苦々しく言う。
「雷がどうとかってやつは?」
「聖教国の教主が信託を受けたと言うのに疑問を唱えた国があってな。その国の王家と主だった貴族が集まった城に晴れた日にも関わらず大きな落雷があって集まっていた王族と主だった貴族は全滅。結果、国が滅んだという事があった。それ以来、どの国も聖教国に意見できず、野放し状態だ」
それに僕と幹彦は溜め息をついた。
「酷えな」
「このままでは姫様は聖教国に連れて行かれ、奴隷を閉じ込めておく地下牢へ死ぬまで入れられる事になる。そんな事、元ランメイの騎士見習いとして許すわけにはいかない!」
彼らは涙を浮かべて頷いた。
「ううん。力尽くで奪還しようとしたところで人数差もあって難しいし、できたとしても、追っ手に捕まるのは間違いないぜ。何かほかの方法を考えないと」
「よく似た体格の死体と入れ替えるなんてのはオーソドックスだけどな。火事で焼けたとかいうシチュエーションなら、顔の判別は付かない」
幸いこちらには、歯の治療痕やDNAを照合するとかいう検査方法はない。
「でも、人数分の死体を集めるのは難しいしな」
言って、唸る。
そして、少し考えた。
「それより、その神罰ってなんだろうな。どうしてるんだろう。ただの魔術じゃないのかな」
それに、襲撃者の中の別の1人が答えた。
「あれは破邪の雷と呼ばれているもので、教主が神に報告して、それに神が神罰の雷を落とすという事になっています。
実際、魔術士が雷を落としても、城を半壊させるほどの雷は落とせませんから。それで神が落とされたものだという事になってはいます」
どの程度か、ビデオなどがないからわからないが、数人がかりでやるとか、やりようはあるんじゃないかと思う。
そもそも、神が本当にいるのかどうかも不明だし、いたとしてもそんな事をするのかどうか怪しい。聖教国のする事が神の主張とは思えないからだ。
「自分の欲のために神を騙って人を不幸にしたりするのは許せないですよね。思い知らせてやらないと」
僕はその方法を頭の中で考え始めた。
教会で泊まる教団兵や護送にあたる教団員のために料理を運び、ミミルは孤児院に戻った。
同じ敷地内に立つ孤児院は、間に中庭もあって離れているとは言え、地続きだ。子供達が見に行ってしまう可能性はある。
しかし、動物のように檻に入れられたまま食事も睡眠もとらされる奴隷の姿を、子供達に見せたくはなかった。なので、絶対に孤児院のある一帯から出ないようにと言い含めてはいる。
ミミルは孤児で、教会の孤児院で育った。田舎の方だったので就職口はなく、成人すると当たり前のようにほかの仲間と教団に入会し、教団兵やシスターになった。
ミミルは何の疑いもなく神様を信じていたし、感謝していた。しかし教育機関の中で、邪神や邪神を信じる者を滅ぼさなくてはならないとか、そのためには何をしてもいいという教えを受け、教義の一部には疑問を抱いた。
しかし、困っている人を助けたいという思いでシスターとなり、落ちこぼれだったので孤児院関連などの落ちこぼれがする仕事に回され、これ幸いとエルゼの教会で孤児の世話をしているのだ。
間違っていると、声に出して言う事はできない。それでも。
「早く出ていって欲しい」
小声で呟いて、溜め息をこぼした。
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