奴隷
剣やポーションなどを納品し、ついでに買い物をしようかと外に出た。
すると、何か行列が都市をつなぐ街道をやって来るのが見えた。
馬車が連なっているのだが、先頭はきちんとした馬車で、残りは台座に鉄格子の檻が載っているようなものだった。それを、馬に乗った人が囲んで進んで来る。馬に乗っている人たちは、お揃いの白いパーカーのようなローブを着ていた。檻の中の人達は俯いたり表情が暗かったりで、服装は、簡素なものを身に着けていた。
「あれ、何ですか?」
訊くと、ジラールは顔をしかめながら答えた。
「ああ、見るのは初めてか。聖教国の奴隷馬車だな」
「奴隷馬車?」
聖教国も知らないが、奴隷馬車という方がインパクトがあった。
「神様の為とか言って侵略と虐殺を繰り返してやがるけど、神様は本当にそんな神託をくだしてるのか」
近くにいた人が吐き出すように言う。
「あんた!教団兵に聞かれたら殺されちまうよ!」
それを、押し殺した声で妻らしき人が止めた。
「あれはこの前侵略したランメイのセリーナ様っていう姫さんだな。確か侵略の名目は、悪魔が住み着いていてそれを王家が匿っている、だっけ」
ジラールが言うと、周囲の人が応える。
「本当はランメイの大きな港と航路が欲しかっただけ。名目なんて誰も真剣に聞いちゃいねえよ」
「何とかならないのかねえ」
「反対した国の城に雷が落ちて、王族と主だった貴族が死んだって国があったろ。教主が神に祈って神が下した天罰だとか言うけど。教主に神の意向に逆らうとああなるって言われて、どの国も聖教国に逆らえないからなあ」
「うちが目を付けられないように、神様に祈ってみるかい」
彼らは言い合って、馬車が通り過ぎるとそこを離れて行った。
嫌なものを見た。それが素直な感想だった。
馬車の列は道の真ん中を堂々と進み、教会の中に入って行った。
「あの人達、どうなるのかな」
「姫さんなんかの反抗しないようにっていう人質の意味で連れて来られた奴隷は、牢の中に監禁だろうな。他のは、何かに役立つから連れて来られたんだろうから、まあ、素直にしてれば殺される事もないだろうけど」
ジラールは言って、
「じゃあまたな」
と家の方へと歩いて行った。
僕達も家の方へと歩きながら、小声でチビらも加えて話す。
「酷えな」
「うん。地球でも、少し前には奴隷なんてものがあったし、実質的奴隷ってのなら今だってある。でも、なあ」
受け入れられない。
この国はまだいい方で、犯罪者が刑期期間中だけ犯罪奴隷として働くという仕組みはあるし、借金が払えない者が債務奴隷として借金分働くという制度はあるが、特に債務奴隷などは奴隷と言っても何をしてもいいというものではなく、最低限の人権は保障されるし、奴隷というより、職業選択の自由がない労働者という感じだ。
しかしよその国では、何をしてもいいという奴隷も存在するらしい。
重いものを呑み込んだ気分で家に向かいかけた時、それが目に入った。
数人の、一般人にしては体格が良くて目が鋭く動きがいい男達が、こそこそと教会の周囲を探り、悲愴な顔付きで何やら壁の向こうを見るようにして立っていた。
「あれって、もしかして……」
幹彦が低い声で言う。
「バレバレだの」
チビが呆れたように言い、幹彦は肩を落とすと、彼らの方へと歩き出した。そして、声をかける。
「おいちょっと」
彼らは一様にギョッとしたように体を固くして、それから無理矢理愛想笑いを浮かべた。
「やあ」
「奪還しようとしてるんだろうけど、まさか正面から乗り込むとかいう気じゃないだろうな」
彼らは手に手に剣や短槍などを持ち、構えた。
「なぜわかった」
「一目瞭然だって」
僕も追いついて、彼らに言う。
「この人数で襲撃して、牢から出せても、逃げ切るのは難しいでしょう。もっと作戦を練らないと」
彼らは顔を見合わせ、疑いつつ言う。
「お前ら、何者だ」
「しがない隠居だ」
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