ただいまと言うのも久しぶり
地下室で内職をして、それを持ってエルゼへと跳ぶ。
久しぶりのエルゼ冒険者ギルドを、恐々覗いてみる。
ここをしばらく離れる原因になった貴族の遣いがいませんようにという祈りは通じたのか、いつも通りの活気溢れるギルド内に遣いらしい姿はいなかった。
いや、安心するのはまだ早い。伝言という手段もある。
僕と幹彦がしゃがみ込んで考えていると、頭の上から声が降って来た。
「何やってるんだ、お前ら」
視線を上げると、ジラールが不審そうな目をして立っていた。
「ジラールじゃねえか。久しぶり」
「おう。何やってんだ、こんな所で」
「いやあ、前に来た貴族の部下が来てないかと思って」
ジラールはフフンと笑った。
「あいつなら来ないだろう。お前ら七大冒険者になっただろ。だから引き下がったぜ。流石に笠に着て命令するのは難しいからな。いやあ、真っ青な顔で出頭の命令書を撤回しに来たあいつの顔は見ものだった」
ジラールは思い出し笑いをして、ドアを大きく開けた。
カウンターの職員と目が合う。
「あ、お帰りなさい!」
一番人気の女性職員がカウンターを出て来るが、僕たちはいつもの職員の前に行った。
「ただいま」
言って、これも久しぶりの言葉だと気付いた。いつもは大抵幹彦と一緒に行動する事が多いので、ただいまと言う相手がいない。
「お帰りなさいませ」
職員はにっこりと笑った。
「お土産です」
「皆さんでどうぞ」
恐らくあの貴族の件で迷惑をかけているだろうと思ったので、ヨナルで有名なお菓子や干物、アルコールを買って来た。
日本でも勤めている時、旅行の土産にはよく饅頭とかクッキーなどの御菓子類が机の上に置かれていたものだし、僕が選ぶ時も、なるべくそこのものとわかるようなお菓子などを選んで買って来たものだ。
しかしこちらでは、クッキーや饅頭に地名や温泉の名前をプリントしたり焼き印を入れたりしたものはなかった。
「ありがとうございます。後で皆でいただきます」
職員たちは笑顔で、歓声を上げて喜んでくれた。
「それより、おめでとうございます。七大冒険者に選ばれたと伺いました」
「ありがとう。
まあ、名誉職だし、今まで通りに頼むぜ」
「そう。僕達はただの隠居だから。
あと、従魔が増えたから登録をお願いします」
ピーコとガン助をカウンターの上に乗せる。
「え、これは──」
「小鳥とカメです」
「ピー!」
「……」
セキセイインコというのはこちらにいないようなので、ただの小鳥だ。
「え、でもフェニッ……」
職員はチラリとチビを見た。
チビは尻尾を振って見上げている。
「……わかりました。小鳥とカメですね」
「そう。ピーコとガン助だぜ。よろしくな」
「ピー!」
「……」
ピーコとガン助も、無事にこちらでも登録が済んだ。やれやれ。
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