従魔登録という名の神獣登録
ホットサンドに舌鼓をうつ犬とインコとカメという珍しいものを見ながら朝食を済ませると、チビはテレビを点けた。
「お。テイマーがこの世界にも現れたようだぞ」
それで、食器を片付けていた僕と幹彦もテレビの前に行き、チビ、ピーコ、ガン助に混ざった。
テレビではどこかの局のワイドショーが映っており、アナウンサーが、
『リスの魔物のテイムに成功したのはドイツの探索者ベンガーさんで、どういう魔物がテイムできるのかはよくわかっていませんが、今後、テイマーと呼ばれる探索者が増える事が予想されます。
このリスの魔物は主に森林地帯にいる小さな魔物で、大人しく臆病で、ほかの魔物の気配に敏感だということです』
と解説していた。
「テイマーか。
史緒。いっそ、ピーコとガン助も従魔として登録しねえか。いや、チビも」
幹彦が言い出す。
「協会の上の方には言ってあるけど、知らないはずの職員やほかの探索者に、疑われてるもんなあ」
「怯えて鳴くって、猟犬も根性ねえよな」
幹彦も嘆息する。
「従魔にしたら、堂々と暴れてもいいんだな」
とチビが目を輝かせる。
「私も私も!?」
ピーコが羽をばたつかせると、ガン助も、
「オイラ、お出かけなんてした事ねえっす!夢みたいでやんす!」
と目を潤ませた。
幹彦は言葉を探しながらチビたちに言う。
「ああ……ほどほどにな。なんたって神獣だから、全力で暴れたらひとたまりもねえしな」
それにチビたちは尻尾を振って応えた。
協会の会長に連絡して
「神獣が増えました」
と報告し、連れて行って面談させ、そこでチビたちを改めて従魔として登録した。
チビは異世界製の首輪というのは変わらないが、鑑札証が従魔登録証に変わった。ピーコはそれを足に付け、ガン助は首につけた。
それで早くダンジョンに行こうとピーコに急かされ、僕達はいつものダンジョンに入った。
子犬とインコとカメを連れてのダンジョンアタックは、変に注目されて少々恥ずかしい。なので、素早くエレベーターで跳んだ。
「何か適当なやつはいねえか」
なまはげのような事を言いながら幹彦が気配を探り、
「あっちにいるぜ!」
と、分かれ道で右を指さす。
「じゃあ、そっちに行こうか」
「おう」
ぞろぞろとそちらに進む。
ピーコとガン助はチビの背中の上だ。
洞窟のような通路はゆるくカーブし、見通しが悪い。しかし気配察知を持つ幹彦とチビは、自信をもってスタスタと歩く。
その足が止まった。
「この先に、粘菌みたいなやつがいるぜ。あれもスライムなのか?」
幹彦が囁くのにチビが頷く。
「そうだ。気付いてないだろうが、お前らもあれを結果的に倒している」
「自覚が全く無いよ」
「だなあ」
僕と幹彦がしみじみと言うのに、チビが続ける。
「あれは、斬れないぞ。斬れば増えるだけだ。一気に核を潰すしかないが、核の位置は外から見えん。全体を叩き潰すのが一番効率がいい」
するとガン助が立ち上がった。
「オイラに任せて欲しいっす」
「よし、気を付けろよ」
幹彦が言い、ガン助は張り切ってチビの背中から飛び上がった。
するとするすると大きくなり、飛んで行く。
「火を吹いて回りながら飛んで行かないのか」
幹彦が残念そうに呟いた。まあ、僕もちょっとだけ思った。
ガン助は隠れて見ている僕達をよそに静かにスライムに向かって飛んで行くと、スライムの方もガン助に気付いた。
威嚇するように伸びあがる。
が、ガン助はその上に飛んで行くと通路いっぱいの大きさまで大きくなり、ドスンと着地した。
スライムは下敷きになりクッションのようになっていたが、やがて重さに耐えかねるようにパンと弾けた。
パン、パパン、パン。
「この音……」
「ああ。確かに聞いたな、あの時」
僕と幹彦は、頷き合った。
が、前方から太いミミズのようなものが近付いて来た。
「あ、ガン助!」
幹彦が飛び出しかけるが、ガン助はそちらに首を向け、口から岩をガガガと吐き出してミミズにぶつけた。
ミミズは身をくねらせ、逃げようとしたが、息つく暇ないほどに岩を叩きつけられ、身がえぐれ、やがて消えた。
「やったでやんすよ!」
ガン助は浮かんで小さくなりながら、こちらを向いた。
「ガン助、凄いぞ。よくやったな」
褒めるとフラフラとしながら、
「体当たりも得意っすから!」
と嬉しそうに言う。
確かに、大岩にぶつかられるとか上から押しつぶされるとかされるようなものだ。効きそうだ。
「期待してるぜ」
「次は私、私!」
「うむ。ではピーコ、油断するなよ」
チビたちが張り切っている。
「微笑ましいな、幹彦」
「ああ。でも、神獣なんだよな、こいつら」
いいんだろうか、この扱いで……。
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