隠居の朝
「あ、フミオにミキヒコ。おはよう」
チビが冷静に言うと、鷹くらいの大きさのホノオドリと牛くらいの大きさのカメがこちらを見た。
「フミオ!ミキヒコ!おはよう!」
ピーコが羽をパタパタとさせる。
「おはようっす。お世話になります」
カメが立ち上がって手を振る。
「え、待って。何で」
「ガメラの子か?」
幹彦も呆然として言うのに、僕も呆然としたまま言う。
「ガメラはミドリガメだったと思うよ。これはたぶんニホンイシガメ」
チビが足元まで来て言う。
「ピーコは無事に成長したからな。大きくなったし、喋れる。今は大きすぎるのでこの大きさにしろと言っておいたぞ」
褒めろと言いたげに胸を張る。
「ガン助は元々成長していたからな。神獣になったら、その時点でこうなったぞ。
こっちも大きすぎるから、家の中ではこのサイズまでにしておけと教えておいたからな」
どうだ、と言わんばかりだ。
「チビは気が利くなあ。ありがとう」
言って頭を撫でながら、いやそうじゃない、と思った。
「いや、待ってくれ。ピーコはいずれ成長すると聞いていたけど、カメは?ガン助って、ガン助か?」
幹彦が言いながら、水槽を覗いた。
「いねえ!」
やっぱり、拾って来たカメのガン助らしい。
「私とピーコで、傷を治しただろう。それに、弱っていたから力を分けてやったし」
チビの説明を聞きながら、僕も幹彦もはっとした。そうだ。何か引っかかっていたような気がしたのは、それだった。
「その前から、そこそこ魔力にさらされて吸収していたようだしな」
「ああ。魚と違ってカメは寿命も長いし、あそこでじっとしていたからか」
幹彦がなるほどというように言う。
「うむ。元々ガン助のいた所にダンジョンコアができて、ガン助はそれでケガをしたそうだぞ」
チビが言うと、ガン助は頭を上下に振った。
「そうなんす。いきなり何かが甲羅の上に乗っかりましてね。重いやら何か苦しいやら。どうにかあいつの下から這い出したのはよかったんですがね、それで傷が入っちまいやして」
「災難だったね」
ピーコが言うのに、
「まったくでやんすよ」
とガン助は嘆息しながら言った。
僕と幹彦は軽く嘆息し、苦笑した。
まあ、しかたがない。
「これからよろしく、ガン助。ピーコも」
「へい!よろしくおねげえしやす!」
「よろしくねー」
「で、今日の朝飯は何だ。フレンチトーストか?ホットサンドか?」
チビが言い、思い出したようにピーコとガン助という後輩を振り返る。
「お前ら。飯の時は小さくなれよ。本来の飯は魔力、人間の飯はおやつだからな。おやつは小さい体で楽しむ程度にしておけ」
「そうだね。私達がお腹いっぱい食べたら破産とかいうの、しちゃうもんね」
「ああ、なるほど。ガッテンでやんす!」
僕と幹彦は力なく笑った。
「ははは。気が利くじゃねえか」
「そうだね、幹彦」
ああ。隠居の朝は驚きがいっぱいだ。
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