亀のガン助
ずぶ濡れになって帰って来た僕に、流石に幹彦たちは驚いたようだった。
「史緒、そんなに泳ぎたかったのか。そんなに水泳とか好きだっけ」
「違う」
言う幹彦に、僕はズイッと石を突き出した。雅彦さん達にはわからなくとも、幹彦にはわかったようだ。
「これ、あれか。ダンジョンコア」
皆がギョッとしたように石を見つめる。
「うん。水に魔素が混じってたから調べたら、滝の下にあったよ。
たぶん、そこにコアができたはいいけど、水が次から次に落ちて来ては流れて、魔素が留められずにダンジョンにならなかったんだと思う」
チビが小さく頭を縦に振る。
「じゃあ、今は」
「ただの滝と、ただの石だな」
幹彦はホッとしたような顔をした。
「一応報告はした方がいいかな」
「そうだな。電話は入れておこうぜ。
で、釣果はどうだったんだよ」
それで僕達手長エビ部隊は、ニヤリとしてバケツを差し出した。
「おお、手長エビ!沢蟹もいる!」
「ん?亀?これも食うのか?」
亀は頭を引っ込めた。
一応ダンジョン庁に連絡は入れ、着替えて夕食だ。
魔物肉とプリンの実を持って来たと言ったら、大喜びされた。ものにもよるが、魔物肉はブランド肉くらいの値段はするし、ワイバーンなどはまだ出回るほど獲れてもいない。食べた事があるのは、一部のお金持ちと探索者だけだろう。
ワイバーンとシカの魔物とトリの魔物の肉を網で焼く。手長エビと沢蟹は素揚げにし、山女魚は刺身と塩焼きだ。
皆、気持ちよくよく食べ、よく笑い、よく飲む。学生のようだ。
そうして寝る。
「ガン助。帰ったらポーションやるからな」
亀に言うと、亀のガン助は首を伸ばしてこちらを見て、目を閉じた。
「何。ガン助にしたのか、名前」
雅彦さんが言うのに、幹彦がふふんと笑う。
「わかったぞ。どうせ、甲羅に手足を引っ込めた姿が岩みたいだからだろう」
僕は目が泳ぐのを止められなかった。
「それより、危ないだろ。1人で調べるなんて。呼べよ」
幹彦は言うので、
「物凄く魔素も弱くて、ダンジョンって感じもなかったから。もし何かいても、魔素があるなら魔術も使えるし、武器も取り出せるし」
と言うと、
「それでも、万が一があるだろ」
と怒られる。
チビも視線でそれに同意しているし、ピーコは亀の甲羅に乗って、こちらをじっと見ている。
「ああ……ごめん」
「ん」
幹彦とチビとピーコが頷くと、僕はほっとし、雅彦さんは吹き出した。
「ごめん。何か、チビとピーコも説教してるみたいに見えて」
してるんですよ、お兄さん。
翌朝は清々しい気分で目が覚めた。
が、流石はこのメンバーだ。朝練を始めた!バカンスのつもりはないのか!
しっかりとそれに付き合い、元気が有り余っているままに帰った。
僕と幹彦は家に戻ると、空いていた水槽に拾って来た小石をざあっと移し、元ダンジョンコアの石と流木を配置して、水を入れた。そしてそこに、亀を入れる。
ポーションを飲ませるまでもなく、気に入ったのかピーコが甲羅の上にとまりっぱなしで、ピーコから魔力をもらって傷が癒えたようだ。
そこで何かが引っ掛かる気がしたが、気のせいだと思い直し、水槽をリビングに置いた。
「何食べるのかな」
「小学生の頃は、魚肉ソーセージとか野菜とかやってたんじゃねえかな」
「そう言えばそうだったかな」
「カメのえさってのも売ってるし」
「へえ。明日買って来ようか。
今日の所は、ソーセージと小松菜だぞ、ガン助」
陸になっている所に置くと、ガン助はゆっくりと歩いて来てエサに近付き、もしゃもしゃと食べ始めた。
「食べたよ、幹彦」
「ああ。
それよりピーコ、よっぽど甲羅の上が気に入ったんだな」
クスッと笑う。
「いっぱい食べろよ」
言うと、ガン助は返事をするように口を大きく開けた。
しかし翌朝、僕達はリビングに入って耳を疑った。ガン助とチビとピーコが話をしていたのだ。日本語で。
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