楽しいキャンプ
車で4時間ほど行ったところにある山の中に来ていた。幹彦のお兄さんの雅彦さんの友人の家の私有地で、広間のある小屋と広めの庭があるだけのものだが、すぐそばにはきれいな川があり、小さい滝もある。道場の子供達が夏休みにレクリエーションを兼ねて合宿するのに使用する場所らしい。
小鳥の声が聞こえ、風がふわっと吹く。家とも異世界とも違う環境だった。
そんな中、
「とうりゃああ!」
「甘い!」
爽やかさやのほほんとした空気をものともせず、裂ぱくした気合いが飛び交っていた。
雅彦さんと雅彦さんの剣術仲間から「剣道と探索者の剣術はそんなに違うのか」と訊かれ、体験方々キャンプしに来たのである。
最近の道場は、稽古として剣道を習う子もいるが、探索者や探索者を目指す人が通う場合がある。そうした後者に教えるためには、自分も魔物と対峙してみなくてはわからないのではないかという話だった。
道場の剣道は、あくまでもスポーツだ。ルールもある。
だが、ダンジョンでは違う。狙う場所だって決まりはないし、卑怯もクソもない。命がけなのだ。それに、相手は人型とは限らないし、魔術も、身体強化も使って来る。
どうしたって、別物だ。
ただ、上級探索者は自分のやり方ができているので、今更道場に来る事は稀だろう。やはり道場に来る者の多くは、新人や探索者を目指す人になる。
なので、中層まで程度の魔物を知っておけば、教える事はできるんじゃないか。そう助言した。
それにいずれダンジョン外に魔素が溢れ、動物が魔物化する日が来るかもしれないし、身体強化を使う相手と対峙しなくてはいけない日が来るかもしれない。
それで、8人で泊まり込んで合宿兼キャンプとなったのだ。
まあ、雅彦さんや友人達は全員が師範だし、幹彦も師範だ。剣道大好き集団で、その上上手い。それで、幹彦と子犬のチビを相手に練習をし始め、飽きる事無く続けているのだ。
やれやれ。皆目が輝いている。体育会系の見本みたいなタイプだなあ。
「史緒、次」
容赦ないな。
散々剣を交えた後は、近くの川で釣りをする事になった。釣れた魚を今夜食べるという予定だ。釣れなければ、魚は無しだ。
幹彦も雅彦さんも山女魚などを次々と釣りあげているが、僕はなぜか今回も釣果が振るわない。
なので、同じく釣果が振るわない2人と、場所と仕掛けを変えた。小さな滝のある滝つぼのそばで手釣りだ。
「手長エビ!」
フレンチで出て来る食材だ!
ボウズ仲間も目を輝かせて、
「素揚げにして塩を振ったら美味いんだよなあ」
と言い、僕達はせっせと手長エビ釣りに精を出した。
滝つぼの周囲に散らばってさらに手長エビを求めて釣りをしていると、足元に亀がいた。普通の亀だが、甲羅と出した頭に傷がある。
家に帰れば治してやれる。そう思って亀を連れて帰ろうと手長エビを入れたバケツに入れた。
いや、せっかくだ。飼おう。飼うなら、石とかがいるな。流木もカッコいいな。そう考えて、僕は川の中に手を入れた。
「冷たい。それに水がきれいだなあ」
そして気付いた。少し魔素が混じっている。
慎重に魔素の元を探した。どこかに未発見のダンジョンでもできていれば危険だ。調べて、もしあれば報告しなければならない。
濃さ自体は大した事がない。魔素を辿ってみる事にした。
水は綺麗に澄み、今の水深は膝程度しかない。なので、ザブザブと川の中へ入って行く。そうして歩いて行くと、滝に突き当たった。さすがにこの辺りは、太ももくらいの深さがある。
滝の下流には魔素があるが、滝の上から流れて来る水には魔素が無い。
滝の下に何かあるに違いない。
しかし、滝の下に目を凝らしても、そこにダンジョンがあるような気配はない。
でも、確かに魔素はそこから出ている。
僕はしゃがみ込んでみた。
滝の下に、見覚えのある石のようなものがある。まん丸のそれは、うちの地下室の底で発見した水晶みたいなのと同じだ。
それを両手で持って立ち上がる。
「水遊びか、史緒君」
「ははは。元気だねえ」
手長エビ部隊の2人がはははと笑った。
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