たたかいのあと
ひとしきりひっくり返って休憩してから、のそのそと起き上がる。
「酷ぇ目に遭ったぜ」
防具が少々傷んでいるが、これならどうにか自動修復が効きそうだ。幹彦自体は、自動的に自然治癒が効いていてケガは治っている。
チビはかなり火傷も負ったようだった。元々氷に強く、火に弱い。僕は急いで治癒魔術をチビにかけたのでこちらも治っており、チビは溜め息をついた。
「久々に骨が折れたな。弱い奴らばかり相手にしていて、なまったかもしれん。反省だ」
僕は全員が、ケガはしたものの無事に治った事に安心して、力が抜ける思いだ。
「無事に済んでよかったよ。はあ。
で、これは何かな」
言って、ドロップ品を見る。
「ブローチは、魔力を流して魔術の規模を大きくするのか」
それに幹彦がフムフムと頷く。
「なるほど。いつもそうだと、薪に火を付けるつもりで辺り一面を焼け野原にしてしまいかねないもんな」
確かに。次に紐を摘まみ上げる。
「これは紐か。武器に巻き付けておいて、魔力を流すと炎がプラスされるんだって。
これ、幹彦にいいんじゃないか?」
「ああ、飛剣が、火の刃にもなるわけだな!」
言って刀に巻いてみると、紐は鍔に形を変えた。
「羽は、火の属性をプラスだって。
チビ、氷にも火にも強くなれるよ!」
チビは羽をチョンチョンと突いていたが、羽を首輪に付けると、
「おお!」
と言い、満更でもない顔になった。
「ブローチは史緒が使うのがいいんじゃないか」
「そうだな。そうしようか」
言われて、ブローチを着けてみる。
まあ、着けただけではよくわからない。
「ちょっと試しにやっておこうかな」
何せダンジョンは、壊れないのだから。
奥の方へ向かって、軽く風の魔術を放つ。
「おわっ!?」
「ふ、史緒!」
「加減というものを知らんのか!」
竜巻の中に引きずり込まれたように暴風に翻弄される。どうやら風が壁に乱反射したようだ。
言っている間にも、何か大きな凄い音がして辺りが揺れ、幹彦とチビとかたまってしがみついていると、揺れも風も収まった。
巻き上がっていた埃も段々と収まって行き、嘆息する。
「偉い目に遭ったな」
「お主は、他人事みたいに……」
「あはは」
「帰るか」
僕達は笑いながら立ち上がり、残りの物を拾い上げるとエレベーターの方へと歩いて行った。
1階に戻ると、待っていた日本団は、戻って来るかどうかわからなかった僕達が戻って来て、魔石を隊長に渡した事で安堵を見せた。これで面目が立つ。
それで揃って外へ出た。
ホノオドリも熱くて部屋中が暑かったが、ここの暑さはまた違う。第一に空気の匂いが違う。
ポーションを準備して日本とここの協会職員が、不測の事態に備えて軍と救急車も待機していたし、どんな姿であろうとも出て来るところを捉えようと、報道陣も遠くで待ち構えていた。
その彼らが立ち上がり、こちらが全員自力で歩いているのを見て動きを止めた。まだ、成功したのか引き返して来たのか測りかねているというところだろう。
しかし隊長が
「ホノオドリの討伐、完了しました」
と言ってバッグから魔石を取り出すと、大声が上がった。
どうやって倒したのか訊かれるのは間違いないが、「ノーコメント」で押し通す。隊長が。
僕達は黙ってそれに同席はしていたが、解散となるとすぐに部屋へ戻り、入浴するとベッドに倒れ込む。
戦っている時からしていた頭痛が限界だ。
「大丈夫か?頭痛薬飲むか?ポーション、飲んだのになあ」
幹彦が言いながら横に来て顔を覗き込むと、ベッドが沈んだ。
「頭の使い過ぎだから、自然に任せるしかないんだろうなあ。
ああ。国試以来だよ、こんなに頭を使ったの……」
医師国家試験の時は範囲も広いし大変だったが、暗記が中心で、これよりは楽だったと言える。
あ、思い出したらまた痛くなる……。
「筋肉痛も、ポーションは効かないもんなあ」
幹彦も眠そうな声で言う。
ポーションも万能ではないもんなあ。
「チビ、大丈夫か」
チビはベッドの横に大きい姿でいたが、
「大丈夫だから、安心しろ。ミキヒコもフミオも、寝るといい。不調な時は寝るのが一番だ」
と言って丸くなった。
確かにそれは言える。具合の悪い時は自然と寝るものだ。動物は自然とそういう風にできている。
様子を見に来てそのまま隣のベッドで寝始めた幹彦も疲れ以外は大丈夫らしい事に安心すると、僕も目を閉じた。
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