強敵現る
ナスを細く縦切りにしてレンジにかけ、めんつゆ、砂糖、酢と一緒に袋にでも入れて冷蔵庫に入れておく。鷹の爪の小口切りを入れてもいい。夕方それを出し、千切りの青じそを乗せ、白ごまをふればおしまい。簡単で美味しい1品になる。
「美味いなあ」
「家庭菜園にナスを植えて良かった」
「味が染みて美味いな、これは」
僕と幹彦とチビは、晩酌しながら夕食を食べていた──チビは飲まない。
「ビールにも合うし、飯にも合うんだよな!」
「ナスの生姜焼きもいいけど、こっちもいいよね」
「うむ。どちらも美味い」
「子供の頃、何でナスが嫌いだったんだろうなあ」
ワイワイ言いながら食べ、メインのポークステーキとひじき大豆、味噌汁の夕食を終えると、片付けをしてリビングに移る。
そこでテレビを点ける。
「まだまだ先はあるんだろう?だったら、魔物もまだまだ強くなるんだよな」
幹彦が言うと、チビはうむと頷いた。
「エルゼのダンジョンの、ようやく中層に入る所だろうからな。
とは言え、出て来る魔物が必ずしも一緒とも限らないからな。断言はできん」
「僕は、魔封じとかされても大丈夫なように、薙刀も練習しないとなあ。気配察知とかもできればいいんだけど」
僕は言い、幹彦と、
「ま、がんばろうぜ」
と言い合った。
と、テレビの音に注意を引かれた。
『重軽傷を負いながらも脱出できた探索者によりますと、これまでとは比較にならない強力な魔物がいるとの事です』
画面はちょうどスタジオのアナウンサーから、現場を中継する画面に変わった。
鬱蒼と茂る濃い森の中に木造の物置小屋みたいなものがある。そうと聞かなければわからないが、あれはダンジョンの入り口だ。
ダンジョンが見付かり出した最初の頃、この南の島の密林で働いている男が、いつも通りに仕事をしに来て、小屋へ道具を取りに行って、小屋の中がダンジョンに変化しているのを発見した。
この時恐る恐る興味本位で入った男は、正体不明の動物に腕を食いちぎられながら命からがら逃げ出した。後にそれは魔物であると断定され、ここがダンジョンであると発表された。
本当に、ダンジョンの入り口というのは、わかりやすいものもあればわかりにくいものもあるし、どこにできるかも様々だ。
「ここって、確か17階くらいにトラが出たっけ」
それに幹彦が答える。
「ああ。毒蛇とか巨大ヒルとか、やたらとやり難そうな所だぜ」
「一層強力な魔物か。どんな奴だろう」
想像する前に、イラストが出た。
全身が燃え上がるトリが立ち上がっている。
「火の鳥?」
「火の鳥だぜ」
僕と幹彦は同時に言った。
「あれか。向こうのホノオドリに似ているな」
チビが言う。
「ホノオドリ?」
「ああ。とにかく燃えていて、熱い。接近する事も困難だ。攻撃は火の弾や火柱を吹く事、火傷するほどの熱風を送る羽だな。
氷で対抗できるはずだが、氷の魔術使いは用意できなかったのか?それとも、向こうとは別物なのか?」
チビが言いながら考えている間にも、アナウンサーが説明をする。
立ち上がった大きさは3メートルを超え、火を吐いたり熱風を送って来るので近寄れない。しかも、氷や水の魔術を使おうとしてもなぜか不発になり、火傷を治そうとポーションを飲んだり身体強化を使おうとすれば、体が内側から焼けるという。
「それは……」
想像して、戦慄した。
攻略も気にならなくはないが、まずは、内側から焼かれた人の事が気になる。
助かったのだろうか。望みは薄いような気がする。
「いきなり日本に出なくて良かったと言いたいけど、現地の人にとっては災難だったな」
幹彦が何とも言えない顔をした。
いずれこのホノオドリが日本にも出るかも知れないとは思ったが、まだまだ相対するのは先の事だと思っていた。
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