事後処理
盗賊団闇ガラスは捕縛されたが、憎々し気に、あるいは恐ろし気に僕を睨んでいる。
「魔封じの首輪をはめられていたと思っていたが、壊れていたのか。よかった」
チビが言うのに、ああ、と思い出して言う。
「ああ、あれ。いやあ、基盤とかって過剰な電流を流すか過剰な電圧をかけると壊れるだろ?だから、過剰な魔力を流すと壊れるんじゃないかって思ったんだよ。当たってたね!」
それに、チビもメイも見開いた目を向けた。
「……普通は壊れるほど魔力を流せん」
「キバン?デンリュウ?それはわからないが、本当はお前が大魔導士か?」
僕の方がキョトンとする番だった。
「え?首輪のごく一部、制御部に限って魔力を集中させただけですよ?その辺の魔術士にもできると思いますよ?」
魔術士用の手錠を作った時にその構造を考えたから思いついた事だ。
憲兵隊長は慌てて部下の1人を呼び、魔封じの首輪をかけて、
「外せるか?どうだ?」
と真剣な顔で試させていた。
「まあ、無事でよかったぜ」
幹彦が笑い、僕達は拳をぶつけ合った。
「無事と言えば無事か。世界が厄災に飲み込まれる事を思えば、遺跡が崩れて山が窪地になった事くらい、誤差のようなもの」
ガイは力なく笑い、コーエンは
「いやあ、お前ぇおもしれえな!」
とゲラゲラ笑った。
光の柱も空を覆う黒い雲も多くの人の目に入り、それを屋内にいて見ていなかった人も地震は体験していたし、何より山が無くなったのだから、隠しおおせるものではなかった。
闇ガラスの壊滅と共にすべてが発表され、一旦中止された予選も再び再開された事も相まって、民衆は寄ると触ると声高に噂話を始めるのだった。
武術大会の会場は、人がぎっしりと集まって熱気に包まれていた。
どうにか予定通りに予選が終わり、今日は本選、決勝戦だ。
幹彦も順当に勝ち上がり、ファンも付いている。ついた二つ名は「舞刀」。強く且つ優雅で、尚且つ顔もいい。ファンがつくのも当然だ。
「幹彦、中学──子供の時からモテて、ファンクラブとかあったんだよ」
膝の上のチビに教えてやる。
「まあ、モテそうなタイプだな」
ガイが納得したように言うと、クリルが
「羨ましい」
と言い、コーエンが鼻を鳴らして、
「イヤミかよ、てめえは」
と言う。
一番女性が多いファンクラブがクリルのものらしい。
なぜ僕が四大冒険者と一緒に観戦しているかと言えば、七大冒険者に指名されてしまったからだ。
そしてこれまでの試合で、幹彦も内定している。
僕も幹彦もそれがありがたいのかどうかよくわからなかったが、何か大変な事──例えば大魔導士の復活とか──が起きなければ、ただの冒険者と変わりがないと言われたので、地形を変えた責任として引き受けざるを得なくなったのだ。
まあこれまで通りに、幹彦やチビと一緒に冒険者をして、趣味の工作をして、家庭菜園をして、年に一度武術大会を見学すればいいだけだ。隠居の名誉職みたいなものだ……たぶん。
考えているうちに、決勝戦だ。
幹彦と大柄の剣士が向かい合っている。
お互いに攻撃魔術は使えず、身体強化のみ。猛スピードで走り、強い力でぶつかる度に、土煙が舞い、火花が散る。
少年漫画でしかそういうのは起きないと思っていた。
「力そのものは向こうの方が強いけど、敏捷性は幹彦が上か」
目を離さないまま言う。
「あの大剣を何度か受けたら、それだけで響いて来る。厳しいぞ」
クリルがそう言う。
「幹彦は大丈夫ですよ。楽しんでるから」
幹彦はリラックスした表情で、焦ったりしていない。
と、幹彦に向けて相手は大剣を大きく力任せに振り下ろし、幹彦は軽く避けた。避けながら刀を振り、飛剣を飛ばす。
相手はそれを大剣で弾くが、武器が大きいせいで隙ができる。
そう思った時には幹彦は接近していて、刀を振っていた。
が、あいては上手く肘を使ってブロックした。これは大剣遣いとして誰もが考える反撃なのだろう。
しかし幹彦は普通ではない。気配を消しながらさらに上のスピードでするりと横をすり抜けて剣の反対側に回り、刀を相手の首にピタリと当てて見せた。
一拍置いて、審判が赤い旗を掲げ、会場は歓声に包まれた。
そして今年、七大冒険者の空きに2人加わったことが発表された。幹彦の二つ名は「舞刀」、僕は「魔王」。
もっと穏便なものがよかったが、ほかの候補は「大魔導士殺し」「厄災の悪魔」。ロクなものじゃない……。
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