大魔導士復活
突き飛ばされた後、僕は体から何かを抜こうとする力を感じた。途端に体が怠くなる。
すぐに魔法陣の術式だとわかり、それを阻害する術式もわかった。
「ああ、この魔封じの首輪がなければ!」
これが邪魔をする。
ミイラのカサカサした顔の目が薄っすらと開く。魂を留めており、ここに大量の魔力を注ぐ事でミイラ化した体を蘇らせ、魂を定着させて完全に甦る術式が組まれていた。
「無駄な術式を組んでるくせに。何が魔術の祖だ。何が魔術の根源だ」
怒りに震えて来る。
「あ、待てよ。こうすれば……」
魔力を練り、任意の方向に流し、集める。
何かが壊れたような音がした。眩しくて、ミイラの顔も良く見えない。
「おおお……!寄こせぇ!もう一度ぉ」
ミイラが言いながら、ぎこちなく腕をあげる。
「ああ?死者なんだよな。アンデッド?」
だったら、対策は知っている。
「光だ!!」
ミイラに対抗できるだけの、強大な光をつむいだ。
誰かが叫んでいるようだが、力の流れが轟音を立てていたせいで耳がおかしいし、光が眩しすぎて視界が戻らない。
それでも、異常耐性が効いているのか薄っすらと叫んでいるのが盗賊団員の声だとわかったし、自分に治癒の魔術をかけると、視界も聴覚も戻った。
ミイラは崩れ、盗賊団員はこちらを指さしたり、目や耳を押さえて転がっていた。
そしてミイラの上に、半透明の人影が現れ、こちらを睨んでいた。
「蘇ろうとしていた、自称大魔導士ですね」
「自称だと!?生意気な小童が!よくも邪魔をしおって!」
地団太を踏んで怒り狂っている。霊体なのでエア地団太だが。
「はあ?魔術の根源にしてはお粗末でしたね。魔力を恒久的に集める方法は興味深くはありましたが」
「黙れこの──!」
言葉を思いつかないのか、口を開けたり閉めたりパクパクさせていた。
「お前の体を乗っ取ればそれで済むわ!なあに、却ってその方がいいというもの!大人しく体を寄こせ!」
「黙れ、幽霊!」
魔術と魔術がぶつかり、余波が広がって地面が陥没し、壁や天井が崩れる。
「に、逃げろ!」
リーダーが叫び、盗賊団員は這う這うの体で走り出した。
僕とミイラのいた部屋の上には大きな穴が開き、曇り空が覗いている。
「うわああああ!!」
ミイラの霊体が叫びながら魔術を放って来る。流石に大魔導士を自称する程度はある。
だが。
「負けてられないんだよ!」
こちらも魔術で対抗する。
魔術と魔術がぶつかり、さらに派手に辺りを破壊する。炎が踊り、竜巻が舞い、氷が飛び交い、稲妻が走る。
これ以上破壊すると、僕もミイラと一緒に埋まってしまいかねない。
怒りの中で、ようやく僕は冷静さを取り戻した。
術式を読み、術式を書き替える。辺りの魔素に干渉し、自称大魔導士の魔術を阻害する。
「うぬっ!このっ!」
「ふはははは!」
霊体でも、真っ赤になって怒ると初めて知った。
その時、呆れたような声がした。
「史緒。楽しそうで何よりだけど、そろそろ切り上げねえか」
幹彦だった。
「あ、ごめん」
僕は我に返ると、新たな術式をつむいだ。
「もう、逝け!二度と甦るな!」
「うわああああ!!」
強烈な光を浴び、自称大魔導士はチリのように千切れ飛び、消え去った。
「はあ、自称大魔導士め。看板に偽りありだ!」
嘆息すると、頭の上の穴の縁から、幹彦の溜め息と笑い声が続いた。
「史緒は本気で怒らせると怖いんだよなあ」
「そうかあ?温厚だけどな、僕」
チビは穴から飛び込んで来て、大きくなって言う。
「まあ、無事で何よりだ。
フミオの脚力腕力では上がれんだろう。ほれ、乗れ」
否定したいが、無理だ。幹彦なら行けそうだが。大人しくチビの背中に乗り、僕は地上に出た。
そして、想像以上に辺りが破壊されている事に愕然としたのだった。
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