大盗賊団
目が覚めるのと、首が痛むのは同時だった。
「痛て……むちうちとかになったらどうするんだよ」
文句を言いながら体を起こすと、男が短剣を突きつけながら、
「ポーション、いるか?」
とぶっきらぼうに言う。
多少のケガはポーションでどうとでもなると思っているからやる事が荒っぽいのだろうが、ケガは治っても、痛いものは痛い。
「いえ、結構です」
首を軽く動かしてみて、軽い打ち身程度なだけだと確認し、断った。
幌付きの馬車の荷台に乗せられていたが、周囲には誘拐犯の仲間と思しき男達が8人座っていた。皆、見かけはただの商人や観光客のようだが、目付きが悪い。
「こいつ、いい服着てやがるぜ」
中の1人がジロジロと見て言うので、身ぐるみはがされるんじゃないかと警戒したが、別の1人が、
「古着屋に売るにも、自分で着るにも、目立って足が付く。諦めろ。うまく行けばもっと儲けられるんだからよ」
と言い、男達は薄笑いを浮かべた。
身代金目当てにしては、名前や実家について訊かれないのがおかしい。まさか──。
「臓器売買か!?」
思わず言うと、男らはギョッとしたような目を向けて来た。
「臓器?内臓か?魔物じゃあるまいし。まさか食うのか?怖い事言うな」
あ、そうか。ポーションがあるから、臓器移植とかはないんだろうな。そもそも、そんなに医療技術が発達していない。
「じゃあ、目的は何ですか」
訊くと、短剣を向けて来た男が面倒臭そうに答えた。
「いいから黙ってろ。着けばわかる」
短剣をちらつかせて言われれば、黙るしかなかった。
しばらくガタゴトと揺られて走り、これ以上は三半規管がおかしくなりそうだと思った頃、ようやく馬車が停まった。
降りろと言われて馬車から降りると、辺りを素早く見回す。人のいない山道で、誘拐犯の総数は30人以上。助けを求める事も逃げ出す事も難しそうだ。
「こっちだ」
言いながら肩を掴まれて、馬車の入れそうにない細い道に入る。そのまましばらく木々に囲まれた道を進むと、崖のようになった所に突き当たる。
そこには石像が5つ並んでいた。
怪しげな宗教だろうか。そう考えていると、男が言った。
「この遺跡には何も無いと言われているだろう」
遺跡らしい。余計な事を言わなくて良かった。
「俺達の中に旧クラム人の血を引く奴がいて、遺跡についての言い伝えを知っていたから、俺達だけはここにお宝があると知っていてな」
旧クラム人というのはわからないが、これを作った民族だろうか。
「そのお宝を取り出す手伝いをしてもらいたいのさ」
男達は、欲にぎらつく目付きをしていた。
「お宝ですか」
「ああ。何でも、魔術士の祖が眠っていて、魔術の根源に触れる事ができるそうだぜ」
それは気になる。
「乱暴に連れて来たのは悪かったがよ、騒がれたりほかのやつらに知られたりするわけには行かなくてな。魔術士と見込んで、兄ちゃんを連れて来させてもらったんだ」
言い訳は嘘くさいが、魔術の根源とやらには興味がある。どうせ逃げられないようだし。
「断る事もできないようですね」
僕達は、胡散臭い笑顔を交わした。
魔術士の兄ちゃんが誘拐されたと泣きながら子供が武術大会の会場に駈け込んで来たのは、強い冒険者がたくさんいるならここで助けてもらえると思ったかららしい。
それを聞いたのは予選を見るのに飽きた四大冒険者のクリルとコーエンで、子供好きと正義感に燃える2人は、なんて事だといきり立った。
そうしてメイとガイにも知らせに行き、子供からどんな魔術士で、犯人はどんな奴かと訊き出していると、それを耳にした幹彦とチビが、被害者が史緒だと気付いたのだ。
「待て!その連れて行かれた奴って、こういうのか?」
スマホの写真を見せると、子供達は頷く。
「そう!お兄ちゃんだ!」
四大冒険者たちも目を輝かせる。
「それは何だ!?」
「ああっと、魔道具。専用だから、他人には使えないけど」
本人認証があるので、嘘ではない。
「で、犯人は?」
「明日も来るか訊こうとして追いかけたら、お兄ちゃんを箱に詰める所を見たんだ!腕の刺青が見えたから、あいつら、闇ガラスだよ!」
幹彦はわからなかったが、周囲が驚いて教えてくれる。
「闇ガラスだと!?」
「大陸中で手配されている盗賊団じゃねえか」
「何で誘拐を?」
「魔術士を狙ってたんじゃ?」
「まさか、脅して仕事をさせる気なんじゃ」
「やべえんじゃねえか」
武術大会予選会場は俄かに騒がしくなり、一旦中止の上、四大冒険者と憲兵、そして幹彦が闇ガラスと史緒を追う事になった。
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