四大冒険者
四大冒険者というのは、有名なものらしい。子供でも知っている常識のような事のようで、「それって何ですか」と訊くのははばかられた。
しかし苦労せずとも、聞き耳を立てていれば話の断片からそれについてわかって来た。
冒険者を代表するような現役の強い冒険者4人。それも、ただ1番、2番というわけではなく、名前が残るほどの強さが必要らしい。
蒼炎の魔女メイ。ただ1人の女性で、炎の魔術を得意としている美女らしい。
巨人ガイ。文字通り巨体で、怪力。大きな斧を武器にしているらしい。
狂戦士クリル。普段は王子様の如き好青年で、仲間を大切にしているらしいが、戦いでは豹変して、血に酔ったように暴れるという。武器は剣で、噂では村雨のような魔剣らしい。
人形師コーエン。見た目はどこのチンピラかという姿らしいが、金勘定に厳しく、意外にも子供好き。鎖の付いた鎌とミスリルの糸を使うらしい。それで相手の自由を奪い、仕留めるという。
七大冒険者が欠けた原因は、ドラゴンが出た事と高齢のために引退したためのようだった。
この七大冒険者に入ったとしても、完全な名誉職というか、特に何かがあるわけでもない。ただ名が知られ、冒険者なら依頼が増えるというところだし、貴族に準じた扱いをされるらしい。
「ドラゴン!いるんだな」
幹彦の目が、これ以上ないほど輝いている。
「ドラゴンを討伐しに行くのは、流石に危ないかなあ」
言うと、幹彦も少し考えた。
「まあ、もっと修行が必要かもな。うん。がんばろう」
え。行く気か?
まあ、見に行くだけなら、僕も見てみたい気はする。地球には絶対にいない生物だ。
それにしても、四大冒険者か。
「四大冒険者って、国民的ビッグスターみたいなものかな」
言うと、幹彦も頷いて言う。
「そんなもんじゃねえかな。ただのファンと呼ぶには凄すぎるよな」
四大冒険者の事を語る皆の目が、男も女も、大人も子供も、皆、輝いている。
誰が強いかと論じ合い、自分が好きな冒険者を推すあまりに違う冒険者を推す者とケンカになったりしている。
「凄い熱心さだなあ」
この世界にもストーカーとかがいるのか、心配になって来た。
「ほかに娯楽らしい娯楽も少なそうだし、冒険者は生活にも関わって来るし、まあ、いやでも熱心になるんだろうな」
幹彦は感心するように言い、掴み合いのケンカを始める男達から目を逸らした。
「それより、実際にどうやって戦うのかを見てみたいぜ。大会に来るらしいけど、試合には出ねえのかな」
四大冒険者の彼らは、七大冒険者に加える者がいないかを探すために大会を見学するらしい。だから、その彼らの目に留まるというのが、冒険者の夢だという。
「僕の予定はやっぱり隠居だな」
「七大冒険者だと、いざって時には危険に立ち向かう事になるんだろうしな。普段は隠居かもしれないけど」
「こっちはやっぱり大変だなあ。
あ、待てよ。いずれ地球も魔素がダンジョン外に満ち溢れたら、似たような事になるのか?」
「その時は国が備えるんじゃねえの?」
「だといいけど」
考えながらも、料理に舌鼓を打ち、店を出た。
「幹彦は明日から予選だよな」
「ああ。史緒はその間店を見て回るか?予選は見学できないらしいし」
「そうだな。魔道具とか見てようかな。
あ、魔術関連の本があれば欲しい」
「スリが出るだろうし、気を付けろよ」
「幹彦もがんばれよ。本選で応援するんだからな」
「おう!」
幹彦は気合十分に返し、僕とチビは満足そうに頷いた。
そんな僕達を、こっそりと見る者に気付かないまま。
お読みいただきありがとうございました。御感想、評価などいただければ幸いです。




