武術大会
「エルゼよりやっぱり人が多いなあ」
僕達は異世界に来ていた。マルメラ王国の首都ヨナルだ。冒険者や一般人による武術大会があり、幹彦が出場してみたいというので、観光方々やって来たのだ。
地下室から真夜中の首都近郊の町にある精霊樹の枝に跳び、そこから首都へ歩いて行ったのだ。
どこの精霊樹の枝も、人目のある所にあるのが普通だ。エルゼのようにうまく誤魔化せる所は稀だ。でも首都に迷路のある公園を見つけたので、次はそこに跳ぼうと思う。
「まあ、エルゼは都道府県の市レベルだろ?」
「それもそうだね」
言いながらも、面白そうなものはないかと周囲をキョロキョロと見て歩く。
武術大会には冒険者や一般人が出場し、いい成績を収めれば、冒険者としての名声を得られるか、どこかの貴族家や国に雇われるという可能性がある。それで出場者が全国各地から集まるし、それを目当てに人が集まり、たくさんの店が出ていつしか祭りになったらしい。
軒を連ねている露店では各地の名物が売られていい匂いで足を止めようとしているほか、特産品もあるし、集まる冒険者目当てに消耗品や武具、魔道具を売る店もあった。
おかげで、飽きる心配はなさそうだが、祭りの期間中に全部見て回れるかという心配があった。
「ようし!これで出場手続きはできたな!」
幹彦がやる気をみなぎらせて言う。
別に名声とか就職には興味はないが、単に強い相手と試合がしたいそうだ。この前、斎賀とやり合ったのがきっかけだろう。
「応援してるよ、チビと」
「ワン」
「史緒も出ればいいのに」
言われて、僕は苦笑した。
「ううーん。僕はまあ、完全に魔術寄りだから」
この大会は身体強化はありだが、攻撃系の魔術は禁止だ。
「ああ……魔術の大会があれば出られるのにな」
幹彦が残念そうに言い、チビが小声で、
「魔術士は基本的に秘密主義だしな。大会で手の内を晒すのは嫌がるだろう」
と言う。
「そんなもんか」
「へえ」
「まあ、二つ名持ちの冒険者は知られているといえなくはないが、それでも全部はさらけ出していないだろうな」
僕と幹彦は、そんなものかと思いながら相槌を打って聞いていた。
「あ。折角だし、ヨナル名物を食べようよ」
そばの食堂からテイマーらしき冒険者を含むグループが出て来るのを見かけて、僕達は店に入った。
ヨナルの名物料理と言えば、海の幸と山の幸と魔物食材を混ぜてキャベツのような葉で包んだものらしい。それを蒸して赤ワインソースやオレンジソースをかけるか、コンソメスープで煮込むか、焼いて塩を振って食べるからしい。
「私は塩焼きで」
チビがコソッと言うのでそう注文し、僕はオレンジソース、幹彦はコンソメスープにした。
来るのを待つ間、店内を見回す。誰もが浮かれた様子で、大抵が大会の話をしていた。今回は誰が優勝しそうか、これまでで一番の名勝負はどれか、など。
「やっぱり、四大冒険者ほどの奴らはそうそう出ないよな」
「だから四大冒険者なんだろ」
「そりゃ、そうだけどよ。彼らが認めた者がいれば、五大とか六大とかになるんだろ?元々この大会も、元は七大冒険者だったのが欠けちまって、それを復活させるためにしてるんだろうが」
「そうだったな」
忘れていたらしい。
僕達も大会の趣旨は初耳だ。
「蒼炎の魔女メイ、巨人ガイ、狂戦士クリル、人形師コーエン。ここに続くやつが現れるのかねえ」
「この4人は凄いからな。ちょっとやそっとじゃあ、並んでも見劣りしちまうぜ」
彼らの話を興味深く聞いていたが、料理が届き、僕達の興味は料理に向いたのだった。
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