正しい力の使い方
いつもありがとうございます。五日正午、活動報告にてお知らせがあります。見ていただければ嬉しく思います。
いかにもヌメヌメとしていそうな下半身がうごめき、尾を持ち上げる。と、それがうなりを上げて振り回され、当たった木がへし折れる。大人が両手でやっと抱えられるほどの太さの幹である。
そうしながら、投石を続けた。
幹彦はそれを弾いていた。
が、途中から、おかしいことに気付く。
斬ろうとしているらしい。失敗したものが左右に弾かれて流れ飛び、成功したものはきれいに二つに割れて左右に飛んでいく。
その二つに流れていくものの数が多くなり、いつしか全部が左右に分かれて流れて行くようになると、幹彦は満足そうに微かな笑みを浮かべた。
余裕だな。
とうとう抱えていた石が尽きると、尾も棍棒も来るより早く幹彦は飛び出し、太くてぬめった胴体に斬り付けた。
「ギシャアアア!!」
大きな怒ったような声をあげてキメラが尾を振り回す。
僕もチビも、もう少し距離をとって眺めることにした。
その間に幹彦は、再度斬り付ける。
傷は深く、重さに耐えかねてそこから先がゴトリと音を立てて落ちた。
「よっし!」
まだ微かに尾の方はうごめいているが、動きはだんだん小さくなっていく。
「幹彦、大丈夫か」
「平気、平気」
幹彦はニカッと笑うと、チビに訊く。
「皮は売れるだろう?肉は?」
「食えるぞ。上半身も買い取りしてもらえるし、そのまま仕舞っておくのがいいだろう」
チビは言い、
「よく刃筋をうまく立てられたな。そうでなかったら、あのぬめる胴体はああも斬れなかっただろう」
と褒めた。
「へへへ!石で練習しといたからな!」
幹彦は半分照れくさそうに、半分得意そうに笑って言った。
「ああ、腹減ったぜ」
「この辺でキャンプにするか」
「わかった」
僕たちはいそいそと泊まる準備を始めた。
翌日も魔の森の中を強敵を求めて歩き、ワニというには大きいドラゴンの亜種のようなものを発見し、倒した。堅かろうが魔術防壁を張っていようが、幹彦とサラディードの前には薄っぺらい膜も同然だ。幹彦は滑るような滑らかな動きで接近すると、軽く刀を振り、斬る。
正しい位置に正しい角度で刃を入れると、小さい力で斬れるそうだ。まあ、タイのかぶと割りを思い浮かべれば想像が付くだろう。滑る材質のものでも同様らしい。
幹彦はコツを完全につかんだようだ。
舞うような美しい動きはそのまま、素人目にもわかるほどに洗練され、無駄を省いて合理的な動きである。
満足げに、小型の竜か大型のワニという魔物の塩だれ焼きとにんにくしょうゆだれ焼きにかぶりつきながら、僕たちは一応の修行の結果が出たことを確認した。
「あとは、人の強敵かな」
骨をせせりながら言うのに、僕とチビは考えた。
「人かあ。盗賊とか、それとも道場破り?」
そういうイメージがあるのだが、異世界でも、「頼もう!」とか言って道場破りをするものなのだろうか。
いや、それも昔の事か。現代でそういう話は聞いたことがない。
「だったら、いい相手がいるぞ。まさにおあつらえ向きの相手だ」
チビが言い出すのに、僕も幹彦も注目した。
「誰だ、それ」
チビはニヤリとして言った。
「聞いた事はあるか?首なし騎士、前剣聖の亡霊だ」
お読みいただきありがとうございました。御感想、評価などいただければ幸いです。




