幹彦、決意する
僕と幹彦は、あまりガツガツと攻略はしていない。高い素材が採れるものより、美味しい肉が採れるものを選ぶところがある。
これはチビも同じで、攻撃し始めればなかなかに好戦的になる事はあっても、可食部分を念頭においたやり方を徹底しているあたり、食い気の方が強いのは明らかだ。
そんなある日、いろんな食材も内職に使う材料もストックがあり、しばらくは内職と家庭菜園の世話でもするかと考えていると、その話を耳にした。
「斎賀がサイの群れを抑えたらしいぞ。七頭とか」
「堅いし、意外と早いし、意外と大変だろ、あれ」
「天空でって事か?」
「そのいつも斎賀と一緒の五人の幹部グループだ」
協会のロビーでそれを話していたのは、その場を目撃したという探索者だった。
誰それが何をしたという珍しい話は、すぐに広まるものだ。探索者というのが、基本的に強い者が好きだという事かも知れないし、情報をいつでも何かと集めておいて自分の攻略に役立てようという姿勢のせいかも知れない。
「そう言えば、今朝のネットニュースで見たんだけど。ハワイのダンジョンで暴れていた大タコ、トップのチームが討伐成功したらしいぞ」
「向こうの人にしてみれば悪魔の遣いらしいから、マジで悪魔に思えたんだろうな」
「ああ。なんせぬめって斬れないし、打撃は吸収するし、ものすごい勢いの墨を吐いたんだろ。どうやって討伐したんだ?」
「なんか、目の間をとにかく突き刺したらしい」
「ああ。絞めたんだな。それでもぬめるから、刃の角度が悪いと刺せなかっただろうにな」
そこまで話したところでカウンターまで順番が来たと呼ばれて行き、僕たちはその場を離れた。
そして幹彦は、意を決したように言った。
「俺、修行する」
触発されたようだ。
それに僕もチビも頷いた。
「いいね。やっぱり修行なら向こうかな」
「うむ。やはり地球のダンジョンは、向こうに比べれば弱いからな」
「サンキュ。いやあ、俺もうかうかしてられねえって思ってな。
考えてみれば、俺はいつもこのサラディードに助けられてきただろ。純粋に俺の力だけしか使えないような時があったら困るからな。俺は初心に帰って、己の剣を磨こうと思う」
幹彦は照れたように笑いながらも、気合い十分にそう言った。そして僕たちは、幹彦の修行を始めるべく異世界へと行くことにし、準備を始めた。
行き先は魔の森にした。ダンジョンだとそこに何が生息しているのか大方決まっているので、それが不明な魔の森の方がいいと幹彦が判断した。
基本的に、僕たちは手出しはしない。ただついて行き、せっかくの素材を回収したり、食事の用意をしたりするだけだ。
何日かかかりそうなので、転移して戻ってもいいが、魔の森に留まって気配察知や気配遮断を使いこなせるようにしようということで、魔の森でキャンプをすることになった。
いくら幹彦がケガをしても回復するといっても、大けがなら時間もかかるし、何度も何度もとなれば、できなくなるかもしれない。なので、救急セットは当然ながら、僕も魔力がなくなったりして治癒魔術を使えなくなる事を想定して、マイセットも持って行く。
これはメスやピンセットや鉗子や針などのセットで、学生時代に家で練習するのに購入し、大事にしてきたものだ。何も、解剖のセットではない。
レトルト食品も補充しておく方がいいかな。
それよりも調味料だな。減った分は補充しておかなければ。
「大きなタライか何かを持って行けば入浴もできるか」
「そこまで毎日風呂に入りたがるのは、異世界人だなあ」
チビがしみじみと言った。
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