反省
僕達は黙々とユキヒョウやクマを狩り、ボスのトナカイを倒したところで戻る事にした。
長々と話し込んで嫌がらせをするチームに閉口しながらも待ち、冷たい態度の協会職員に買い取りを頼み、ホテルに帰ると、大きな溜め息をつく。
「幹彦ぉ。ちょっと僕、反省したよ」
幹彦は怪訝な顔を僕に向け、それから頭をガシガシと掻いた。
「ああ、あれか。皆がそうと決めつけるなって」
「そう。あれって、ブーメランだよな」
ズーンと落ち込む。
「はあ。確かにな」
幹彦も頭を抱えてベッドに座った。
チビは僕と幹彦を順番に眺め、言った。
「女が皆、騙すわけでもストーカーになるわけでもないからな」
それで僕も幹彦も、もっと落ち込んだ。
「ミキヒコの母上だって、何度もそう言ってたな」
ますます落ち込む。
そして、幹彦は呻くように言う。
「毛嫌いは、しないようにする」
僕も頷いて言う。
「僕も、身構えないようにする」
チビはふわあと欠伸をして、言った。
「そうか。
それより腹が減ったぞ。今日はジンギスカンを食うんだったな」
僕達は立ち上がって、着替えをし始めた。
肩身の狭い思いまでしてここのダンジョンに行く事も無いと思うが、ここで帰るのも逃げ帰るみたいで嫌だ。そう思って、今日もダンジョンへ行く事にした。
すれ違う探索者たちは、こちらを見て何かこそこそと言っていたり、相変わらず睨みつけたりしている。
クローバーのした事に腹は立つものの、理由を聞いた今は、その動物や弱い者を囮や捨て駒にしたというチームにこそ腹が立つ。
うっとうしい視線を無視して歩いてゲートをくぐる。
まあ、昨日最先端に達しており、今日は進む邪魔をされる事も無い。僕達はエレベーターを使って、トナカイのいた部屋を出たところに行った。
「さあて。今日はどんな美味いものが出るかな」
チビが舌なめずりして言い、思わず幹彦は吹き出した。
「僕はメロンとかトウモロコシなんかもいいなあ」
「俺はやっぱり海鮮かな」
「わたしはジンギスカンもいいな。あれは、羊か」
好きな事を言いながら、僕達は食料調達──いや、魔物討伐にと歩き出した。
サーモン、イカ、エビ、ホッケ、マグロ、昆布、羊肉、牛肉。食料を山のように仕入れて、ホクホクしながら戻る。チビも足取りが弾んでいる。
「いやあ、ここは美味いものが出て本当にいい所だな!」
幹彦は機嫌よく言う。
「ここまで地域の特産物を落とす所もないんじゃないの?」
言うと、幹彦も頷いた。
「何でだろうな。まあ、ありがたいから別にいいけど」
「そうだね」
そして、買取カウンターの列に並ぶ。
今日も列は長く、視線がチラチラと飛んで来る。しかし意外にも早く進み、順番はすぐに回って来た。それに内心で首を傾げながらも魔石を売ってその分の料金を受け取り、ロビーを出ようとしたところでクローバーのメンバーと鉢合わせした。
「あ」
「あ」
お互いに気まずく目を合わせ、そしてサアッとそらせる。
が、短剣の女の子が声を張り上げて僕達は足を止めた。
「ごめんなさい!」
振り返ると、彼女達は並んで頭を下げていた。それで周囲の目が僕達に集まっている。
「うわっ。あの、頭を上げて下さい」
言うと、彼女達は頭を上げたが、視線は下に向き、短剣の女の子が代表して言う。
「昨日はちゃんと謝らなかったから。あれから話し合って、誤解だったって動画にあげたんだ。見た?」
幹彦と一緒に首を振る。
「いや、見てない」
「うん」
「そっか。私達毎日動画をあげてるんだ。だから、全部誤解で、ちゃんと強くて犬も可愛がってたって言っといた。嫌がらせとかしないでくれっていうのも」
短剣の女の子がおずおずと言うのに続いて、大鎌の女の子と杖の女の子が何度も頷き、剣の女の子はこちらを上目遣いで睨みながら言う。
「その、悪かったわ。自分があいつらに殺されそうになったものだからって、調べもせずに決めつけてあなたたちに八つ当たりしてしまって」
僕と幹彦は、ぐうっと言葉に詰まった。
「いや、その、わかってくれればもういいですから」
「そうそう。実害がなければ別に。なあ?」
「ワン!」
彼女達の反省の言葉が胸に突き刺さる。
そして謝罪を受けると早々にその場を立ち去った。
ああ、胸が痛む……。
それで何となく、幹彦の実家に、土産物とは別に海産物を送ったのだった。
お読みいただきありがとうございました。御感想、評価などいただければ幸いです。




