鍋のメイン食材は現地調達で
空間収納庫には色々な物を入れてあるので、鍋もコンロも良く使う食材もある。
「何にしようかな。鍋がいいかな。カニは体を冷やすんだったっけ」
「鍋か。いいな」
「ホットワインなんかも欲しくなるな」
「いっそここでキャンプしたくなるな」
冗談を言っていると、幹彦が立ち上がった。
「獲物が向こうから来たぜ」
チビもすっくと立ちあがる。
「クマだな」
僕もまだ見えないながらも立ち上がった。
「クマか。味噌仕立ての鍋が合うな。
よし。消える前に肉にしよう」
言っているうちに、大きなクマが四つん這いで近付いて来るのが見えだした。
「あれはヒグマか。大きそうだな」
クマは足を止めると、態勢を低くして唸り声をあげた。
爪と牙が鋭いほか、単純に力が強いので腕でふっ飛ばされると骨折や内臓破裂もあり得るし、圧し掛かられると圧死する。
クマは後ろ足で立ち上がると、吠えた。
吠えると同時に、槍状の氷が飛んで来た。それを盾で受け止め、火を飛ばす。
それをクマは軽々と跳んで避け、雪を蹴立てて走って接近して来た。とても全長2メートルを超す巨体とは思えないスピードだ。
振るわれる腕をチビが払いのけ、幹彦が滑り込んで空いた首元に斬りつける。
「グガアア!!」
クマが痛みと怒りの声をあげる。そののけぞった首の傷に、氷の槍を飛ばしてねじ込むと、幹彦はそれを蹴り込んで傷を大きくする。
クマはヨロヨロと後ずさり、雪の上に倒れた。
それでも腕を振り、涎を垂らして目を爛々と光らせる。
チビが腕を押さえ、幹彦が刀を振って首を落とした。
そして僕はすぐに近寄り、クマに触って「解体」する。ダンジョン内では急がないといけないのでこれが便利だ。
クマはきれいに解体された状態でそこに転がった。
「いつ見てもふしぎだなあ」
「うん。でも、外ではともかくダンジョンではこれは助かるよな」
「肉が出るとは限らんし、急がないとほかのやつに襲撃されかねんからな」
言いながら魔石をしまい、使う部位以外の肉は冷やすためにかまくらの中に入れて雪の中に埋める。
取っておいた部位は魔術でざっくりと冷やしてから切り、味噌をまぶしておく。その間に野菜を切り、鍋に水と野菜、調味料を入れる。
沸騰してきたところでクマ肉の味噌を洗い流してから肉を入れて新たな味噌を入れた。
「これは、たまらんな」
「締めはうどんか、ご飯か」
「どっちもあるよ」
「むむむ。これは難問だぞ」
「あはは。食べ終わるまでに考えればいいよ。
じゃあ、いただきます」
かまくらの中で、熱々のクマ鍋を食べた。
残りは、しぐれ煮とかもいいなあ。そんな事を考えていると、急に声がして騒がしくなった。
何事かとカマクラから顔を出して見ると、クローバーが震えながら歩いて来ていた。
「寒いぃぃぃ。ぼ、防寒着を着て来た方が、いいんじゃないですかぁ」
「もう1度カニはごめんよ。丁度いい武器を貸してくれるファンがいたからよかったけど、わざわざ殴りつける武器を持ち込むの、邪魔じゃない」
「使い捨てもねえ」
「……」
頭をそっとひっこめた。
全員の顔に、「面倒臭い奴が来た。このままやり過ごしたい」と書いてある。
しかし現実とは無情なものだ。
「なに、あれ」
「カマクラ?」
見つかった。しかも、
「いい匂いがしない?」
近付いて来た。
僕達は無言のまま、視線をかわし、嘆息した。
と、遠くから覗き込まれる。
「あ!あんたら!え、鍋?」
短剣の女の子が言って目を丸くすると、それに他の声が続く。
「まさか、遭難して犬を?」
「あんの野郎!」
そして、バタバタと走って近付いて来る。
溜め息をつきながら、幹彦が言う。
「犬鍋って、いちいち想像が恐ろしいな、あいつら」
「同感」
「ワウゥ」
恐ろしい顔付きで、クローバーの短剣の子と剣の子が入り口から覗き込んだ。
またここで、いちゃもんをつけられるようだった。
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