海あれば山あり
毛ガニを首尾よく5匹もゲットし、ようやく僕達は次に進む事にした。
その間に見ていたが、カニの甲羅の硬さと泡に苦戦して、皆毛ガニまで──じゃない、ボスまで辿り着けていないようだった。
例のクローバーもカニに苦戦していたが、杖の女の子は慌てながらも、杖で殴ったり、皆の回復をしていた。魔術師ではあるが、攻撃魔術は使えないのかも知れない。ほかの3人はどうにか斬ろうと頑張っているが、甲羅に負けている。折れないだけましだろう。杖で殴るのがまだ1番効いていた。
ボス部屋の向こうの扉を開けると、まだ階段に通じていなかったが、地面がゴゴゴと音を立てて揺れると壁面に階段ができ、らせん階段とつながった。
こうして階段は下へとつながって行くのか。
そう思いながら階段を下り、次の横穴、下の階へと入った。
「海じゃない」
呆然とした。てっきり、海だと勘違いしていた。
「雪山?知らなかったら遭難するぞ」
そこは一面吹雪の雪山だったのである。
「私は平気だぞ」
チビは言って、僕と幹彦を見た。
「向こうで作っておいてよかったな」
そうだ。エルゼで作った防具は、最高級の代物だ。それだけでも一級品である魔物素材にミスリルを糸にして編み込み、どんな攻撃でもまずは耐えられる性能を持っているのに、見た目と着心地は普通の服にしか見えないという優れモノで、防刃、防魔術、防水、防汚、耐熱、耐寒の性能が付いているのだ。おまけに編み込まれ、刻み込まれた術式さえ無事なら、少々の傷なら修復してしまえる。コートとシャツとズボンとベストをこれで作っており、貯金はほぼなくなったが、これなら惜しくはない。
「さあ、行こうぜ」
「雪山だろ。何が出るかな。雪男?」
「フン。私が返り討ちにしてやろう。
で、それは食えるのか?」
言いながら、雪山に足を踏み入れたのだった。
寒さはましとは言え、視界からの情報で寒い気がする。不思議なものだ。
ビュッと強い風が吹いて雪を舞い上げ、視界を白い雪で覆う。
チビは大きくなって、僕と幹彦の風上を歩いてくれている。フェンリルは寒冷地に強いものらしく、むしろ海より居心地はいいという。
「何にもいないなあ」
言うと、チビと幹彦が足を止めて行った。
「いや、来たぜ」
「うむ。3頭だな」
目を凝らすが見えない。気配察知はつくづく便利だな。
が、見えて来た。
「おお、かわいい……!」
キタキツネではないだろうか。
「史緒、騙されるなよ。あれは魔物だからな」
「わかってるよ、うん。大体キツネだって、エキノコックスっていう寄生虫がいるから、触ったら危ないんだし」
「では、1人1頭だな」
チビが言いながら獰猛に歯を剥きだしにし、お互いに同時にとびかかった。
しかし僕にとっては、嫌な相手だった。姿を消すのだ。それで、噛みついたり引っかいたりしようとする。なので盾で全方向を防御し、様子を見た。
幹彦とチビは、気配を読んで見えない相手を仕留めた。大したものだ。
僕もいつまでもこうしてはいられない。
足元を見た。雪の上に、点々と足跡が付く。
「そこか!」
盾を解除し、空中を薙刀で払う。間違っていれば、場所によってはこちらがやられるので、勇気がいる。
しかし上手く捉えたようで、穂先に手ごたえがあり、その姿が現れると痙攣し、かききえた。
残ったのは、魔石と尻尾だ。
「尻尾?マフラーにしろって事か?」
キツネのマフラーというのは見た事がある。銀狐だったが。
「お、暖かいぜ」
幹彦が巻いてみて、声をあげた。
「チビは無理だなあ」
「私はいらん。肉でも残った方が嬉しかった」
チビはがっかりしたように言い、僕も幹彦も吹き出した。
「そろそろ昼だな」
「昼ご飯にしようか」
「戻るか?」
転移で戻れなくはない。しかし、このダンジョンは人が多い。
「せっかくの雪山だから、なんかそういうのがいいな。かまくらとか作った事ないし」
すぐに幹彦が目を輝かせた。
「おお、いいな!俺もやってみたいぜ!」
かまくらをチビは知らなかったが、説明して作り始めるとその気になり、出来上がると小さくなって中に潜り込んだ。
「おお!これはなかなかいいな」
気に入ったらしい。
「じゃあ、ご飯にするか」
僕達も中に入り、食事の支度をする事にした。
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