旅行へ行こう
地下室へ戻って来た僕達は、片付けをしながら言い合った。
「旅行かあ。本当に、久しぶりにそれもいいな」
「向こうへ行くのが旅行みたいなものだったけど、たまにはいいよね」
「温泉とか」
幹彦が言うのに、僕も続ける。
「美味しい海産物とか食べたい」
するとチビが思い出したように言う。
「この前テレビでやっていたあれか」
それは『グルメ探偵の食べ歩き事件簿』という2時間サスペンスのシリーズもので、事件そのものよりも、日本各地のグルメが目玉というドラマだ。その時の舞台になっていたのが、北海道だった。
「カニ、ウニ、メロン、ジンギスカン」
「サケ、ホッケ、ラーメン、カキ」
脳裏に北海道の美味しいものが浮かんで行く。
「北海道にあるダンジョン、海産物がでるんだってな」
「行く?」
「行こうぜ」
「私も賛成だぞ」
こうして、旅行がてら北海道のダンジョンに行く事が決まった。
武具類を空間収納庫と収納バッグに入れ、ほんの手荷物だけを持って飛行機に乗り、北海道へ行く。着いたところで転移で家で待つチビを迎えに行き、北海道へと行く。
そこでまずはレンタカーを借り、調べておいた店で海鮮丼を食べたり観光をしたりしながら、ダンジョン近くの探索者用ホテルへ行ってチェックインした。
元は普通のホテルで、客室に鍵付きのロッカーは無く、フロント奥にある武具を保管する鍵付きのロッカーに武器を預けておかなければならない。
猟犬なども入れていい事になっているので、広めのツインルームを予約してある。
「昼はジンギスカンでどうだ。それで晩は海鮮寿司を食べに行こう。朝はホテルの朝食にするか」
一般客と探索者でダイニングが分かれていて、特に動物連れの探索者は、探索者用ダイニングへ行くと動物も入れると書いてあった。
「楽しみだなあ」
「食い過ぎには注意だな」
言いながら、部屋を出て鍵をかけた。
観光客でにぎわう街を皆と同じように観光し、名物を味わい、観光スポットで写真を撮る。
レストランではチビが入れない店があったが、探索者が飼う探索用の動物は介助犬と同じような扱いをされている所も最近では増えているので、そういう店を選んだ。
「このウニもホタテもカニもエビも、その前のジンギスカンの羊もメロンも、ここのダンジョンで獲れるのだな」
チビが決意をにじませて言う。
「いるよ。カニもイカもカキもいるよ、チビ」
「明日からが楽しみだぜ」
「ああ。これは、遅れを取ってはいかんな。フミオ、ミキヒコ、真剣にいくぞ」
チビはどうやら、気に入ったらしかった。
僕と幹彦は大浴場の温泉を堪能したが、チビも部屋についているペット用の温泉に入った。せっかくだからと温泉をすすめてみたのだ。
「チビ、温泉はどうだった?」
「たまには悪くないな」
「明日も入った方がいいぜ。温泉は、疲れを取るからな」
「何?回復作用があるのか?魔素は感知できなかったのに」
チビがフンフンと鼻を蠢かすのを、僕は笑いをこらえながら見ていた。
「まあまあ。チビも明日をお楽しみに、だよ。万全の状態で臨まないとな」
「うむ!」
幹彦が笑いをこらえ、肩を震わせていた。
お読みいただきありがとうございました。御感想、評価などいただければ幸いです。




