隠居生活への暗雲
魔素の動きを阻害する魔道具ができると、それをダンジョン庁に持って行った。
電話で先に知らせておいたので取次はスムーズで、大臣のほか、総理、防衛省のトップと大臣、警察庁のトップと大臣が集まっていた。
そこで、目の前で実験してみせた。範囲内を阻害するものと、個人に付けて阻害するものだ。
画期的な魔道具だと興奮していたが、発明者として名前を出したくないと言うと、理論発明者及び魔道具発明者は「扶桑碧海」、あそうふみおのアナグラム、ふそうあおみという架空の人物として発表する事としてくれた。
公共施設や重要施設、学校などで使うほか、魔術師にかける手錠はこれになるそうだ。世界中の軍隊や警察、店や銀行、病院など、たくさんの場所でこれが使われるだろう。魔術が生活にも軍事にも影響していない地球では、今の段階で阻害方法が広がるのでいい。
まあ、阻害を阻害する魔道具、というものが、ECM対ECCMという風に開発しようとしていくかもしれないが、これ以上はプロに任せよう。
ただ、幹彦のレシピによる箱を採用する事で術式部分がブラックボックス化した。これで反社会的組織などに解析されて、対策を立てられる心配はない。
なので、共同経営の会社を登記して、そこの開発、販売とする。
これで隠居の資金は驚くほどの額になったようだ。今後も勝手に増えるから安泰だ。やっと安心して隠居できる目途が立った。
エルゼへ行き、魔物を狩ったり、何かを作ったりして過ごす。
枝豆はエルゼでブームになり、元からあったものじゃないかと思うくらいに浸透していた。どこの居酒屋でも枝豆は人気のつまみとして置いてある。
ただ、魔物化することはなく、豆太郎だけが特殊な苗だったようだ。
守るんですは一般家庭というよりは冒険者に人気で、野営の時にこれをセットするのが当たり前になりつつある。
どちらで隠居しても、いけそうだ。
こちらの方が昔から魔物がおり、ダンジョンの攻略も断然進んでいるので、遥かに強い魔物が出ている。なので素材も、段違いに良いものが溢れており、防具でも武器でもよい物を作る。なので、こちらで得た高級素材を惜しみなく使い、こちらの金銭で、こちらの一級の職人に依頼して、防具を仕立てた。
何せ、幹彦は資源ダンジョンでとうとうミスリルを出したのに、地球ではこれまでなかった物質なので加工ができないくらいだ。
地球でこれだけのものを作る事すら不可能だろうし、現在では僕達の武具が地球で一番高性能だと思う。
いつものダンジョンでこの前攻略したばかりの魔物は、とうにこちらで、僕達も討伐している。新人から抜け出した辺りにちょうどいい相手だと言われた。
「動きやすいし軽いし、防御力は高いし。いいな」
ごきげんで薙刀を振り回して言うと、幹彦も刀を振り回して言う。
「ああ!もう、ドラゴンだって討伐に行けそうな気がするぜ!」
ここは森の中なのだが、周囲にはオオカミの群れの死体が積み重なっている。
チビも暴れまわり、
「やはりこちらの方が、骨のある魔物が多いな」
と嬉し気だ。
問題らしい問題もなく、僕達はすばらしい隠居生活を楽しんでいた。
手早く解体して魔石と皮と牙を剥ぎ取っては収納バッグに入れ、そろそろ帰るかとギルドへ向かう。
この時間は、収穫品を売ったり依頼達成の報告に来る冒険者が多く、混む時間帯だ。仕方がないとのんびり待つつもりで、カウンター前の列に並ぶ。
とは言え、大人気の美人お色気職員ベーチェの前は更なる大行列で、僕達の馴染みの職員の所は比較的短い。
「こんにちは。買い取りお願いします」
バッグの中身を出すと、それを専用のかごに移しながら査定していく。
「状態がいいですね。これなら全部で、この金額になります」
職員はサッと金額をかきこんだ紙を見せる。
その時、横から声がかかった。
「お前達がミキフミか」
偉そうな口調と高そうな服装から、貴族らしいと一目でわかる。
「ミキフミ……そう呼ばれてるのか」
「知らなかったぜ」
僕と幹彦は、ボソリと呟いた。
男はイライラしたように、売店に置いてあった剣と魔道具を振って言った。
「これを作ったのが貴様らかと訊いているんだ」
面倒臭いやつが来たな。そう思いながらも、僕達は頷いた。
「そうですけど。不具合でも起こりましたか?」
「返品ですか」
男はそれに応えず、言う。
「ライリー侯爵が召し抱えて下さるそうだ。旦那様のために、剣、魔道具、ポーションを作れ」
「え。嫌です。なあ?」
「ああ。断る。帰ってくれ」
僕と幹彦はそう言い、これで終わりと職員に目を戻した。
「貴様ら!二度と商売ができんようにしてやるぞ!」
「じゃあ、冒険者1本でいくから別にいいぜ」
「貴様らぁ!ライリー侯爵はここの領主の寄り親で、冒険者ギルド長の親類だぞ!」
そんな事言われても。そう思いながら僕達は目を合わせて苦笑した。
「貴様らは冒険者として不正な活動を行っている疑いがある!なので冒険者資格を停止するように、本部に即刻申し入れてやる!」
「そんな横暴な!」
声が上がるが、男は勝ち誇ったような顔で出て行った。
「どうするんです!?」
「まあ、ほとぼりが冷めるまで、のんびりと旅行でも行きますよ」
僕は肩を竦めると、幹彦もうんうんと頷いた。
「それもいいな。そうしようぜ!」
チビも
「ワン!」
と鳴く。
「支部長が抗議するでしょうから、こんなのは通りませんよ。すぐに撤回されるでしょう」
僕達はしばらく、エルゼでの活動を控える事にした。
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