穴の底、再び
毒を回避し、隙あらば接近して攻撃する。
計画では、足を斬って動けなくしてから、上に乗って頭部と胸部の境目に刃を立てて切断。
上に乗るなんて気持ちが悪いが、そうもいっていられない。がまんだ。
足は半分以上を斬ったが、盛んに毒を吐くようになった。怒っているのだろうか。それを回避しつつ後ろへ回り、上に飛び乗って胸部と頭部の間に薙刀の刃を差し込み、振り抜く。
硬い手ごたえではあったが、流石は幹彦の作った刃だ。切断はされなかったが、かなりの深手にはなったようで、アリジゴクは盛んに手足をばたつかせ、頭を振って暴れる。
飛び降りた──と言いたいが振り落とされて、地面に転がり、体を起こした僕の目の真ん前に、アリジゴクがこちらを睨みつけるようにして、いた。
表情が読めなくとも、言葉が交わせなくともわかる。こいつは今、物凄く怒っている。
「うわわわわ!」
これでもかと吐き出される毒を転がるようにしてかわす。
しかし、穴の底は狭かった。グルグルと回るように逃げても、大きなアリジゴクが邪魔で、いつしか追い込まれていた。
あああ、何か何か何か!幹彦がここにいれば!
アリジゴクが僕の前で、立ち上がるように足を振り上げ、毒を注入して体液を啜る管をのばす。
そこから先は無意識に近い。管を薙刀で斬り飛ばし、頭部の根元を腹側から斬る。それで上から斬った傷とつながったらしく、頭部が変に揺れた。
それを見て側頭部を横から殴りつける。それで頭部は外れ、飛んで行った。
遅れて、胴体が地響きを立てて地面に落ちる。
虫は、死んだと見せかけて動く事があるので、用心しなければ。そう思って警戒していると、アリジゴクはサラサラと崩れて消え、魔石と液体の入ったビンが残った。
何だろうとじっと見ると、そのビンは毒液となっていた。
いつ、どうやって使えと言うのかわからないが、せっかくなのでそれらを空間収納庫へと入れておく。
「さて」
アリジゴクは片付いたが、脱出経路についてはまだだった。
幹彦もチビも、どうしているだろうか。考え、脳裏に思い浮かべた。
ここに精霊樹があればなあ。これから、万が一に備えて、小枝でも携帯するべきだろうか。
そう言えば、転移する時って、術式が取り巻くよな。
思い出した時、めまいにも似た感覚が体を襲った。
砂の上に、投げ出される。
「うわっ!ぺっ、ぺっ!」
口の中に入った砂を吐き出すと、声が頭上から降って来た。
「史緒!?お前、どこから!?」
「まさかフミオ、転移か!?」
幹彦とチビだ。
しかしそれどころじゃない。
「砂が、ぺっ」
水筒を出して、うがいをする。そしてようやく、落ち着いた。
「いやあ、参ったよ。また穴の底だったよ」
ぼやくと、幹彦は脱力したように肩に両手をかけた姿勢で嘆息し、チビは周囲をぐるりと回った。
「ケガはないな」
「うん。アリジゴクの巣だったけど、どうにかね」
「アリジゴク?」
幹彦は地面を見回した。
「これ、どこに巣があるのかよくわからないな」
チビが、
「罠に関するスキルがあれば発見できるだろうがなあ」
と言う。
「魔石と毒液を残したけど、どこでどう使えっていうんだろうね」
僕はそれらを空間収納庫から出して、見せた。
「暗殺者とかなら喜びそうだけどよ」
幹彦が苦笑し、僕は再びそれをしまった。
「ところでフミオ、転移したのか」
チビが思い出したように言う。
「あ、そうだな。いやあ、アリジゴクは倒しても、出口がなくて。精霊樹目掛けて転移する時の事を思い出したら、術式が見えて」
呑気に言いながら、立ち上がって砂を払う。
「いや、転移だぞ。そんな簡単なものじゃ」
チビがもごもごと言うが、
「いやあ、生きた心地がしなかった。無事に戻って来てよかった」
と幹彦が笑いながら息を吐き出し、チビはどうでも良さそうに苦笑した。
「ま、そういうやつらだな」
それからは、砂を突きながら慎重に進んで行ったのだった。
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