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【マンガボックス・コミカライズ連載スタート(7/5)】戦犯勇者の弟妹  作者: アニッキーブラッザー
第三章(三人称)

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第60話 幕間(トワイライト)3

 戦が終わり、そして同時に魔王軍の援軍が帰還した。


「とうさーーーーん!」

「おとーさまー!」


 わらわ率いる六煉獄将の軍。

 戦の勝敗が既に決しているとはいえ、わらわたちが帰還したことは何よりも民たちに安心感を与えた。

 気が抜け、涙が出て、そして子供たちは一目散に走った。


「う、ううう、おとーさまー、えええん、ええーん」

「リロ! ああ、リロ……無事だったか、ケガは? 服が破れてるけど、どこかケガはしてないか!」

「うん、だいじょうぶ! あのね、あのお兄ちゃんと、ジェニちゃんに助けてもらったの!」

「……そうなのか……」


 シンユーに飛びつき、泣きじゃくりながら抱き着く幼き娘。

 ケガはなさそうだが、その剥ぎ取られた衣服からも、悍ましい酷い目に合いそうになったのではないかと容易に想像できる。

 いつもヘラヘラ笑っているシンユーが唇を噛みしめながら、力強く娘を抱きしめている。

 さらに、


「あなた……」

「ハニー! よかった、二人とも……二人とも無事で」

「嗚呼、あなた……ッ、ごめんなさい、貴族の妻としてみっともないところは見せるものではないのだけれど……うう、も、もう少しで、リロが……うう」

「ああ、もう大丈夫だ。大丈夫だから。大丈夫だから!」


 どうやら妻の方も無事だったようだ。

 だが、確かにもし一歩間違えたら妻も娘もどうなっていたことか。

 シンユーは手を緩めず、抱きしめたその手により一層力を込めて抱きしめている。

 

「とうさーん! とうさーん!」

「ヒート……」

「とうさん、俺、やったよ! 母さんと、そしてお腹の中の赤ちゃん、ちゃんと守ったぜ!」


 他にも、常に仏頂面のマイトの子とは思えぬぐらいいつも活発で笑顔も多い子供。

 マイトに飛びつき、そしてこれでもかと胸を張っている。

 

「おお、マイト様、そうですよ。いやァ、おたくの息子さんも本当に勇敢でしたぞ?」

「ええ、確かに戦ったのはあの人間たちですが、この子も声を出して皆を避難誘導したりと率先してましたから」

「それに、あのボーギャックに果敢に立ち向かおうとしていましたからね!」


 そして、民衆たちからもあの子供を褒める声が上がる。

 もっとも、マイトからすればそれは喜ばしいことではなく、むしろ恐怖。なぜなら、息子が一目散に逃げなかったということは、それだけ危険度は高くなり、死ぬ可能性だってあったのだ。

 本来なら、誰よりも逃げて欲しかったはず。マイトの悲痛な表情がそれを感じさせる。


「マイト……」

「お前も無事か……体は?」

「ええ。お願い、あなた。ヒートを……怒らないであげて? この子も、お腹の子や友達を守るために……」

「…………」


 身重のマイトの妻も前へ出る。こちらも無事だったようだ。マイトはただ黙って妻を抱きしめて無事を確認。もうじき生まれるであろうお腹の子も。

 そして、マイトはそのままヒートの頭に手を置き……


「よくやった、ヒート。お前は俺の誇りだ」

「ッ!?」


 普段あまり褒めたり煽てたりしないマイトだからこそ、重たい称賛の言葉。

 その言葉に余計息子は有頂天になりそうで、興奮で飛び跳ねそうだが……まあ、今はよいか。

 いずれにせよ……


「エルおにーちゃん、ああ、エルおにーちゃん!」

「ぬおおおお、親分~~! 親分~~~!」

「落ち着くのです、ジェニ! プシィ! エルセは気を失っているだけです……今はとにかく安静に、急いでベッドに運びましょう!」

「運ぶ運ぶ! ふわふわ配達で運ぶからァ! エルおにーちゃん、起きるぅ!」

「親分、拙者片時も離れず看病するでござる~! 体を拭くのも尿瓶も喜んで、ですので、どうかァ! このプシィ、あの勇者を打倒した親分の力と勇気に感服し、改めて親分の子分にしていただいたことを誇りと思っているでござる! だから、どうかァ!」

「んもぉ、しーっ、です! 静かにゆっくり運んで安静にです! 尿瓶も私がやります!」


 そんな中で騒がしいのはアッチ。

 どうやら、あの小僧も完全に力尽きて気を失っているようだ。

 当然だ。一体どんな戦い方をすればあのように壊れるのかというほど痛々しい姿だ。

 骨の二~三本どころではない。恐らく全身の靭帯や神経も含めて千切れまくっている……。

 だが、それでもそれがあったからこそ……


「姉上……」

「ガウル……無事で何よりじゃ」

「無事ではありません。僕はボーギャックに負けました。そして、本来ならそのまま凌辱されたことでしょう。多くの者が殺され、虐殺されたことでしょう」

「?」

「しかし、そうはなりませんでした。あの……テラの弟妹が居なければ……間違いなく、僕らは……断言します。あの二人が居なければ、僕たちは終わっていました」


 すると、ボロボロに傷ついた姿で、それでも事実を歪めることなく報告するガウルの言葉に、わらわたちはまた複雑な想いを胸に抱いてしまった。


「そうか……それで……魔界勇者か……」

「はい……強かったです。恐ろしき天賦の才、しかしそれだけではなく……どこまでも勇敢で……」


 テラの弟妹。もしテラが健在であれば、あの二人もそのまま八勇将クラスの力を持った脅威として、わらわたちの前に立ちはだかったことであろう。


「テラの手で一体何人の魔族が……だというのに……その弟妹は……一体何人の魔族を救ったというのじゃ?」


 あの二人が居なければ、人類にとってのこの大勝負で、ひょっとしたら大魔王様含めて魔界は敗北していたかもしれない。


「あの二人が居なければ……民も、そしてハニーや娘も……ってことだよね? マイトも、奥さんやヒートを失っていた」

「……………」


 そう、あの二人が居なければ……


「……待て、クローナ」

「うぇ? え、あ、お姉さま? 何です! 今、エルセを一刻も早く――――」


 気づけばわらわはクローナを呼び止めていた。

 足を止められたことで、姉たるわらわに向かってクローナがムッとした顔を向けて睨んでくる。

 だが、それでもやはりこれだけは……



「ぜ……全軍ッッ、気をつけぇええええ!!!!」


―――ッッッ!!!!????



 今この場にいる全兵士に向け、わらわは六煉獄将として命じねばならぬ。

 この場には、あのホブゴブリン同様に、家族が、仲間が、友がテラたちに殺された者たちは大勢いるであろう。

 憎むべき敵の家族。

 そんな相手に対して、わらわは……



「この魔界の危機的状況に際し、その力、勇気をもって、命がけでこの魔界を守り抜いた、エルセ、ジェニの二人に最大の謝意をもって、全軍敬礼ッッッ!!!!」


――――ッッッ!!!!!



 その号令に、この場にいた全兵士が姿勢を正して力強い敬礼を弟妹に贈った。

 妹の方は圧巻だったようで口空けて固まり、クローナや子分を名乗る獣娘は歓喜に震えている。

 肝心の小僧の方は気を失って分かっていないかもしれないが、しかしそれでも今この場でやらねばならぬと思い、そしてそんなわらわと同じ気持ちだったのか、兵士たちは真っすぐな目で皆が敬礼していた。

お世話になっております。

本日、私が執筆しております別作品、


『ループした悪役かませ炎使いが真面目に生きたら女勇者パーティー全員が痴女になってしまい世界はピンチ!?』


が書籍化・発売しました。

大変お上品な作品になりますので、是非に手に取って頂けたらと思います!!!!

よろしくお願い致します!!!!!

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