第十二話 呼び名に打ちのめされる少女
自立した女性を目指して一人暮らしを目指すも、想像を絶する都会の住宅事情に梓は打ちのめされました。
しかし武が梓と一緒に暮らす事を喜んでいる事を知り、気持ちが上向きます。
そんな梓を打ちのめそうとする『呼び名』とは……?
どうぞお楽しみください。
「梓」
「何? お兄ちゃん」
「……疲れてないか?」
「ちょっと。でも大丈夫」
「そうか」
三軒目の不動産屋さんを出たところで、お兄ちゃんが声をかけてくれた。
予想通り、五万円の予算だとなかなか希望通りの家は見つからないけど、お兄ちゃんが一緒に暮らす事を嬉しいって思ってくれてる事を知れたから、気持ちは落ち着いている。
「今日はこのへんにして、帰らないか?」
「え? う、うん、そうだね」
まだお昼前だけど、お兄ちゃんお腹空いたのかな?
お家探し、急がなくて良くなったから、お兄ちゃんとのんびり過ごすのもいいな。
「じゃあ帰りにお昼と晩ご飯の食材を買って行こう」
「うん」
そう言って車に乗り込むお兄ちゃん。
そうだ、私も何か一品作らせてもらおう。
お兄ちゃんと一緒にお料理。
それはすごく楽しそう!
「ねぇお兄ちゃん、そうしたら私も」
「……あの、梓……」
? お兄ちゃんが何だか複雑な表情をしてる……。
「えっと、その、一つ頼みがあるんだけど……」
「何?」
「……その、俺をさ、『お兄ちゃん』って呼ぶの、やめない……?」
「え?」
な、何で何で何で!?
だって従兄弟で、小さい時から一緒に遊んでいて、本当の兄妹みたいに過ごしてきたのに!
お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ!
……!
いや、違う!
だからお兄ちゃんは私を女の子として見れないんだ!
だったらチャンス!
お兄ちゃん呼びをやめたら、今の関係から変われるかもしれない!
「……じゃあ何て呼んだらいいの?」
「うーん、下の名前、とか……?」
下の名前……。
って事は……。
こ、恋人みたいに……。
「……武、さん……?」
は、恥ずかしい!
でも嬉しい!
「ふんぐっ」
お兄ちゃんが変な声あげた!
何かぷるぷるしてる!
笑いこらえてる!?
「……や、やっぱり、し、しばらくは、お、『お兄ちゃん』がいいや……」
「そ、そうだね……」
震えるお兄ちゃんの声に、私の浮かれた気持ちはすぅっと冷えた。
お兄ちゃんの中じゃ、私はまだ妹みたいな存在なんだね。
お嫁さんになるまでの道のりはまだ遠い、か……。
「じゃ、じゃあ帰ろうか……」
「うん……」
無理に笑いをこらえたからか、耳まで真っ赤なお兄ちゃんの横顔を見ながら、一緒に作る料理を何にしようか、一生懸命考えを巡らせるのだった……。
読了ありがとうございます。
ほんのりラブコメ。
たまにはこんなのもよろしいかと。
いでっち51号様の企画を見て、
「ご当地……? 東京……? 恋物語……? 東京◯ブストーリー……?」
トゥクトゥーンとなりかけた頭をぶん殴り、
「上京してきた人を絡めたラブストーリーとかどうだろう」
とこんな話に仕上がりました。
練ってる途中浮かんだ、『銀座のホステスに拾われた素朴な学生のちょっとディープなラブストーリー』が、まさかこんな風になるなんて……。
まぁ良くある事ですよね(白目)。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。
そして素敵な企画を作ってくださったいでっち51号様、重ねて御礼申し上げます。




