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第十一話 不動産事情に打ちのめされる少女

高級布団になすすべなく眠らされてしまったあずさ

不甲斐ない自分を鍛えるために、一人暮らしへの意欲を燃やしますが、タイトルで負けが確定してしまっています。


どうぞお楽しみください。

 ……このままじゃ駄目だ……。

 お兄ちゃんのお嫁さんになるには、こんな甘えた生活をしてちゃいけない。

 一旦一人暮らしして、色々大人になってから向き合わないと!

 ……折角会えたお兄ちゃんとまた離れるのは辛いけど……。

 そうと決まったら気合入れてお家を探さないと!


あずさ、準備できたか?」

「う、うん」

「お、そのワンピース、可愛いな」

「! そ、そう!?」

「髪型ともマッチしてて、すごく似合ってるよ」

「あ、ありがとう……!」


 も、もう!

 お兄ちゃんったらそういうのさらっと言っちゃうんだから!

 嬉しいけど複雑……。

 何の気なしに「可愛い」って言えるのは、きっとお兄ちゃんの中で私が子どもだからなんだろうなぁ……。


「どうした? いえ探し、不安か?」

「う、うん、ちょっとだけ……」

「大丈夫。俺がここ買った時にお世話になった不動産屋さんだから。すごく親切だし丁寧だったよ」

「そうなんだ、ちょっと安心……」


 不安なのはそこじゃないけど、私は何とか笑顔に戻す。

 「子ども扱いしないでほしい」なんて言ったら、それこそ子どもだもん。


「じゃあ行こうか」

「うん!」


 お兄ちゃんの言葉に元気に頷くと、私は大人に向けて一歩踏み出した。




「こちらの物件などいかがでしょうか?」

「……」


 ……声が、出ない……。

 お兄ちゃんの家と駅に近いところで、とお願いしたら、月十二万……?

 ワンルームなのに……。

 お兄ちゃんの家って、いくらするの……?


「こちらは駅近に加えて、セキュリティに関しても防犯カメラやオートロックなどしっかりしておりますので、女性の一人暮らしには安心かと」

「……あの、もう少し安いところってありませんか? ……その、五万円くらいで……」


 仕送りで頼めるのはそれが限度……。

 生活費はアルバイトして何とかして……!

 すると不動産屋さんは難しい顔をした。


「月五万円、ですか……。ですとこちらの物件が、月四万八千円ですが……」


 出された書類の写真は、ドラマに使われていそうな古いアパートだった。


「駅から徒歩二十分の住宅街の真ん中で、商店や交番が遠い地域。間取りは六畳一間でお風呂なし、セキュリティは部屋の鍵だけになりますよ?」

「う……」

「若い女性にはあまりおすすめできないですね」


 で、でもお兄ちゃんにふさわしい女になるには……!


「じゃ、じゃあそ」

「ありがとうございます。ちょっと持ち帰って検討させてください」

「えぇ、勿論です。では物件のコピーをお渡しいたします。少々お待ちください」


 そう言うと、不動産屋さんが書類を持って奥に行っちゃった……。

 お兄ちゃん、何で……?


「梓、急いで決めようとしちゃ駄目だよ。他にも不動産屋さんを回れば、良いのが見つかるかもしれない。いくら安くても安全に不安があるところはやめておこう」

「え、でも……」

「大丈夫。俺の家は広いから、梓が急いで出ていく必要なんてないよ。ゆっくり落ち着いて探そう」

「う、うん……」


 でも、それじゃあ私……。


「それにさ、梓が家にいてくれると、何か落ち着くんだ」

「……え?」

「ご飯とかも作り甲斐があるし、家に話し相手がいるって良いなって思うんだ」

「へ、へぇ……」


 心臓が! 心臓がどくんどくん言ってる!

 お兄ちゃん、私といるの、そんな風に思ってくれてたんだ……!

 どうしよう! 嬉しい!

 大人の女になるには喜んでる場合じゃないのに!


「梓が嫌じゃなければ、大学生活とかアルバイトとかある程度落ち着いてからまた検討してもいいと思うんだ」

「い、嫌なわけないよ! お兄ちゃんの側にいると私も安心するもん!」

「そっか、それなら嬉しいな」


 きゃあああぁぁぁ!

 にっこり笑顔最高!

 やっぱりお兄ちゃんと離れたくない!

 子ども扱いでもいいから、側にいたい!

 ……大人の女は、もう少しゆっくりなる事にしよう、うん。

読了ありがとうございます。


おや? たけるの様子が……?


さてこのわたわた系ラブコメも次回で完結となります。

どうぞ最後までお付き合いください。

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