終章 帰ってきた日常②
昼休み。孝二は学校から出て病院へ向かった。
孝二は病院の入り口にもたれかかるようにして、その中をちらちらと見ていた。その手には花束が握られている。
「――それでは、お大事に」
廊下の奥から医者の声が聞こえてくる。孝二がそちらを見ていると、廊下の奥から待ち焦がれた相手の姿が現れた。
「……千里」
「あ、孝二」
こちらの姿を確認した千里が、こちらに小走りに駆けてくる。
「待っててくれたんだ」
「あぁ、それと……ベタだけどこれを」
孝二はそう言って千里に花束を渡す。
「わぁ綺麗。ありがとう」
「それで良かったかな? 他にもいろいろ考えたんだけど――」
「花貰ったら女は誰だって嬉しいって」
千里はそう言って、満面の笑みを浮かべる。その笑みを見ているだけで、こちらも幸せな気持ちになる。
「それと――ちょっといいかな?」
孝二は病院から出て、人気のないところへと進んでいく。
「どうしたの?」
千里が後からついてくる。やがて周りが木々に囲まれた場所で孝二は立ち止まり、千里に向き直った。
「千里」
孝二は千里の名を呼ぶ。いつもと様子の違う孝二に千里は黙ったまま孝二を見つめる。孝二は静かに口を開き、言葉を紡いでいく。
「俺、ガキでさ。今まで自分のことばっか考えてた」
千里の顔をまっすぐに見る。
「でも、もうガキは卒業したい。千里に心配かけられるような男になりたくない」
孝二は両手を千里の肩にかけ、言葉を続ける。
「これからは、いや、ずっと、千里を見つめていたい。千里のことを、まっすぐに。えと、だから……」
孝二はしどろもどろになりながらも、最後ははっきりと言葉を告げた。
「要は――俺は千里のことを心の底から愛してるってことだ。今までも。そしてこれからも、ずっとだ」
その言葉に千里は顔を赤らめ、若干伏し目がちになりながら口を開く。
「なんか……言ってること無茶苦茶だけど……言いたいことはなんとなく分かったけど……」
「千里!」
孝二は千里との距離を詰める。互いの顔がすぐ目の前にある状態。互いの呼吸が頬をくすぐる。
「…………」
孝二と千里は顔を真っ赤にしながら、見つめあう。しばらくして孝二が口を開き、ポツリと言った。
「えっと……キス、してもいい?」
「……いちいち聞くな!」
千里が顔を真っ赤にして怒鳴る。
「分かった」
孝二はそう言うなり、一気に顔を近づけ、互いの唇と唇を合わせた。
風が優しく舞い、二人の髪を撫でる。二人はまるで時が止まったかのように、いつまでも互いの香りを感じていた。




