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五章 歪んだ日常 25

 足元まで届く、赤黒く染まったコートが風に揺れている。大きく見開かれた眼と、三日月のような笑みを浮かべた顔がこちらをまっすぐに向けられていた。

その右手には――いつの間にか巨大な鎌のような物が握られていた。

鍵山の心臓が激しく音を立てる。何度も呼吸を繰り返すが、ちゃんと呼吸が出来ていないのか、段々息苦しくなってくる。

緋川の左手がゆっくりと動き、自らの顔に触れる。

途端――顔の皮を剥ぎとった。

「――――!」

 そこから覗くのは人間の顔ではない。赤く血走った眼と肉食獣の牙。そして黒く反り立つ二本の角。

 次に左手は肩に触れ、そして衣服ごと人間の皮を脱ぎ去った。辺りに血や内臓が、噴水の如く飛び散る。

 そしてそこに残ったのは、獣の体毛と牙を持つ、恐ろしい化け物だった。先ほどまであった人間の面影などどこにも残っていなかった。

 その化け物の胸の中心が黄金に輝いていた。そこには『XIII』と描かれており、その周りを囲うように皮膚を剥ぎとられた人間の顔のような物が無数に描かれていた。

「ナンバー13。コノ刻印ノ名ハ『死神』」

 化け物が淡々とそう告げた。そしてゆっくりとした足取りで、鍵山に近づいていく。

「僕ノ命ガ絶タレタ時、コノ能力ハ発動スル」

 ゆっくりと鎌を振り上げ、静かに化け物は告げた。

「僕ハ君ノ命ヲ貰イ、肉体ヲ取リ戻ス。ソシテ永遠ニ生キ続ケル。死ヌコトハ決シテ許サレナイ。ソレガ――『死神』」

 鍵山の瞳に映る自らの姿をとらえ、化け物の目が細められる。

「サヨナラダ。ダケドネ、信ジテクレ。僕ハ化ケ物ジャナイ――人ナンダ。人間ナンダ……」

 そして――鎌は振り下ろされた。


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