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五章 歪んだ日常⑱




「今回の実験はすごく良い成果を出してくれた。僕は嬉しいよ」

 夜風の吹きつける屋上。広々とした屋上に、ベージュのコートをまとった男がいた。足元まで届く、そのコートが風になびいている。

「実験……?」

 鍵山は溢れる血を押さえながら、目の前の男の言葉を反芻する。

「そう、これは実験なんだ。期待する成果として刻印の能力を持つにふさわしい人材の確保と、CWAの革新派の連中を黙らせる。その二つの目的のね」

 コートの男は、優しい微笑を浮かべ、言葉を続ける。

「僕は常に唱えてきた。大いなる力は危険であると。自らの精神に伴わない巨大な力は確実に人の心を歪めると。だが、革新派の連中は、この刻印が新たな時代を作る足掛かりになると言ってはばからない。いつ、誰が作ったかも分からないこの刻印を。その気になれば、一人の子供でも一つの殺戮兵器となる可能性を持ったこの刻印をだ」

 男の頬笑みは相変わらずだ。だが、その笑みは危険な光を宿っていることに鍵山は気付いた。

「だから、僕はこの実験を思いついたわけだ。大いなる力を与えることで歪みを誘発するというね。これにより心が歪むことのなかった、確実に信用出来る人材の確保。そして刻印の危険性を訴えることもできる。まさに一石二鳥じゃないか」

 男の言葉は止まらない。

「刻印はCWAで回収、保管されていた刻印を使用している。君も知っているだろう? CWAで刻印消失騒動が起きたことを」

「え?」

 男の言葉に、鍵山は思わず頓狂な声を上げる。

「えぇ。まさかあれの首謀者が緋川隊長だったなんて」

「!!」

 突然の声に鍵山は振り返る。

 いつからそこにいたのか。鍵山の背後には一人の男が静かに立っていた。無感情な目をこちらに向けている。

「分かってくれたかい? 杉山竜君。僕の意思が」

 緋川と呼ばれた男が、鍵山の背後に立つ男に言葉を返す。いつから緋川の言葉は鍵山ではなく、背後の男に投げかけられていたのか。

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