表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/79

五章 歪んだ日常⑧

『ちょうど優と一緒にいたからよ。そこまでバイクに乗せてきてもらったんだ』

 暗くて顔がよく見えない。千里はまっすぐに目の前の男を見つめていた。後ろ手に組んだ手にはナイフが力強く握られている。

 ――嫌……。

 ゆっくりとした足取りで千里は目の前の男に近づいていく。

――嫌だ、助けて! 嫌っ!

『……どうした?』

 男のほうもこちらに近づいてくる。近づくにつれて、互いの姿もはっきりと見えてくる。

 ――逃げて! 逃げてよ、孝二!

 闇夜から浮かび上がってきた、男の顔。見慣れた自分の顔。

 その顔は驚愕に満ちていた。

『千里! いったいどうしたんだ!?』

 映像の孝二が叫ぶ。千里の顔色の悪さと服の乱れに気付いたようだ。

 ――孝二、逃げてよ。何で逃げてくれないの!?

 孝二がこちらに近づいてくる。その度に千里の悲痛な叫びが頭の中に響く。

『千里!』

 孝二の手が千里の肩をつかむ。千里は孝二の目をまっすぐに見つめる。孝二の瞳に映る千里の顔は微笑んでいた。だが、それは今の孝二にはとても悲痛な笑みに見えた。

『ちさっ……!』

 映像の孝二の言葉が途絶えた。

 目の前の孝二は大きく目を見開き、喉の奥から声を出そうとしていた。だが、その口からは乾いた空気の流れる音しか聞こえなかった。やがて肩をつかむ力が一瞬強くなったかと思うと、まるで糸の切れた人形のように孝二は崩れ落ちた。

 ――あ、あ……。

 千里の手は真っ赤に染まっていた。


 ――嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ