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/^o^兵\「……門兵長」
不安そうな若い兵士が門兵長の顔を見る。
(・(エ)・)「構わないから、開けてくれ。国や民のためであれば規則なんてものは守るに値しない」
そっと手を背に回す。
(・(エ)・)「人を守るための規則で、国が傾き人が死ぬならそんなもの無い方が良い。私たちの仕事は街を守る事ではなくて民を守る事だ。生きるに街が必要だから、街を守る」
門兵長は優しく、兵士の背を叩いて門の方へ押した。
(・(エ)・)「門を開けなければ危ないというのなら、私たちの仕事は門を開ける事だろう」
/^o^兵\「……はい。承知しました」
兵士の声は元の大きなものに戻り、全力で走り出した。
やり取りを見ていた二人は何も言わない。騎士の前で、騎士を置いて兵士にモノを教えるなどあってはならない。不届だと、叩いてやるくらいはしなければならなかったろう。機を逸したと気づいた時にはもう遅かった。ただ、二人は溜息をついて、苛立つ素振りだけ見せる。
/^o^兵\「門兵長!」
ニシカワとシューが門の前に立つ。大声で急かそうとしたところで、それが聞こえた。声は一人の兵士から。どこからか姿を現す。暗いせいで、兵士長達に意識が向いていたせいで、枯れた大声が聞こえるまで気が付かなかった。
兵士は空気が漏れるような音を出すと、空気を吸い込む。すぐには終わらない。二度、三度と深い呼吸。これもまた、騎士の前でとって良い態度ではない。だが、叱責はない。言わせてはいけない。とも思ったが、止めたところで門はこれ以上は開かない。皆の手が止まっている。だから、待つしかない。ニシカワ達も何を言うのか、その場で待つ。それが大したことで無ければ、一、二度は殴らなければ不自然であろうが、細事ではあるまいという確信めいたものはある。
/^o^兵\「公家十位ジョーンズ様、商家二位クックル様の屋敷に居られます」
(・(エ)・)「……間違いはないな」
その声は背を向けて門へ向かう二人には聞こえない様、抑えたものだった。
/^o^兵\「はい。やはり先日、上総区画から入られていた事を確認しました。念のため屋敷に向かいましたところ、クックル様がジョーンズ様を呼ばれ本人で間違いない事と証言されたそうです」
見れば兵士の頬は腫れていて、鼻からは血が垂れている。騎士に無理を言って確かめたのであれば、その程度は珍しくない。
(・(エ)・)「良し、安房区画へ行った者達を呼び戻せ。手口からして奴らは、普段相手にしているただの賊ではないぞ。どうやったか知らんが馬まだ連れている」
兵士が頷くとすぐに走り出し、また暗闇に消える。それを見送りながら、兵士長は大きく息を吸い込んだ。
(・(エ)・)「門を閉めろ、そいつらは騎士じゃない」
二人の後ろから放たれた叫び声に感情は感じない。ただの大きな声は不気味な程に平坦で冷たさ感じる。
振り向くシューに対してニシカワが「走るんだお」と叫ぶとアカは一気に加速していく。
(・(エ)・)「生きたまま捕らえろ。馬がいるんだ、何かあるぞ」
予想していた様に、四方から兵士が飛び出す。しかし、人の比にならない速度で走るアカは囲いを一気に抜け出す。その後ろでニシカワは、門までにある数本の灯火を倒しながら追いかける。途中、近くに居た兵士は、立てかけてあった木槍で吹き飛ばす。
シューに向かって投げられた槍を払い落し、少しだけ減速したアオの巨体を兵士にぶつけた。
兵士は軽々と飛んだあと、呻いたまま起き上がらない。




