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lw´- _-ノv「あなたの新しい名前も考えないとね。同じ名前が二人も居たら不便だもの」
シューは倉庫の戸を僅かに開き、その隙間に語り掛ける。
辺りに人影はないが返事とも取れる声が短く上がる。
翌日、ニシカワはギコのもとを訪れていた。
何かしたい事、欲しい物があってもどうすれば良いか分からない時はここへ来る。
最近ではそれが当然の様になっていた。
(^ω^ )「それじゃあ、よろしく頼んだお」
話を終えて帰ろうとするニシカワをギコが呼び止める。
(,,゜Д゜)「あぁ。ただ、いつ出来るかは分からんぞ」
しばらく、ニシカワは顎に手を当て考え込む。
早く欲しいが下手なものを掴まされた方がよっぽどうまくない。何しろ下手を打てばシューまで危険がおよぶ。
(^ω^ )「こればっかりは時間よりも、間違いないものじゃないと困るお。時間は二の次だお」
(,,゜Д゜)「分かった。出来上がり次第、連絡しよう」
ギコは頷くと、どうやって依頼をこなしたら良いか考え出す。
(^ω^ )「それから、しぃはどうだお」
ニシカワがこれまで以上に周囲に気を配りながら小声で尋ねる。
(,,゜Д゜)「家でまだ休んでいる。昼ごろから買い物だけどな。いつまでもあの格好じゃあな」
ギコがいつも通りの大きさでそう答える。それを受けてニシカワは不自然に辺りを警戒することをやめた。
(^ω^ )「面倒を掛けるお」
(,,゜Д゜)「その分のものは貰ってるんだ。気にする事じゃない。……あぁ、そうだ。大分先になると思うが、お前から貰った分で足りなくなった時はどうする」
(^ω^ )「その時はまた取りに来て欲しいお」
言い終えるとニシカワが思い出したような声を上げて付け加える。
(^ω^ )「もし、ここにいない時は別の場所で有名になっているはずだからそっちに頼むお」
ギコが不思議そうな顔をしたが、ニシカワはそんな事気にせず「じゃあ、行くお」と帰っていく。
lw´- _-ノv「アオにしたわ」
倉庫でシューに会うのは三日ぶりだった。
ビイグルの店は夜になれば少なくとも二人の番が前に立つ。そのため簡単に出歩くことのできないシューは中々この場所に来る事が出来ない。
その彼女が、久しぶりに倉庫で会ったニシカワに発した第一声だった。
lw´- _-ノv「この子の名前」
薄暗い部屋の中でも分かるほど、大きな疑問符を浮かべるニシカワに向けてシューが言う。
その隣に座るアオが一つ鳴いた。
(^ω^ )「……おっおっ。まぁ、嫌がっている様子も無いし、シューがそうしたいなら別にいいお」
lw´- _-ノv「嫌がるわけないわ、一緒に決めたんだもの」
アオがまた答えるように鳴いた。
(^ω^ )「でも、なんでアオなんだお。色で決めるならクロかと思ったお」
lw´- _-ノv「それだとあの子と区別できないじゃない」
(^ω^ )「……あの子」
また疑問符が浮かぶがすぐにシューが続ける。
lw´- _-ノv「屋敷のあの子よ。今、あなたが世話している」
(^ω^ )「あぁ、たしかにそうだお」
屋敷で世話しているもう一頭の馬。騎士が失態を隠すためにどこからか連れてきたのは確かに黒馬である。
lw´- _-ノv「ほとんど真っ黒なんだけど、本当に少しだけ青が入っているのよ」
(^ω^ )「暗いのによく気づいたお」とニシカワが言うと、座っているアオの毛を少しだけ逆立てて見せる。
鼻の先とアオの毛先が触れるほど、顔を近づけて目を凝らす。
lw´- _-ノv「暗い青色よね。だからその子はアオ」
シューに優しく首筋を叩かれてアオが目を細める。その様子から、すっかり彼女にも慣れているのが良く分かった。
アオと一緒に名前を決めたというのも、あながち嘘でないかもしれないとニシカワは思い始めていた。
lw´- _-ノv「帰ったらあの子の毛並みも良く見てみるといいわ。あの子は青じゃなくて赤が入っているから、比べたら少しは分かりやすいかも」
(^ω^ )「じゃあ屋敷の子はアカかお」
ニシカワがアオの頭を撫でてやると「もっと」と催促するように掌に強く押し付けてきた。
lw´- _-ノv「そうね。あの子が嫌じゃなければそれでいいんじゃない」
lw´- _-ノv「あぁ。でも、すぐに分かる様な大きな違いじゃないから目を凝らさないとだめね。本当に微妙な違い。日の当たり具合の違いかもしれないって思うくらい。お店で待たされているあの子をじっくり見るまで気づかなかったしね」
そうシューが続けた。
(^ω^ )「たしかにそうだお。そもそも目立って違う部分があったら別の馬だって分かってしまうお」
lw´- _-ノv「そうね」
それからは、お互いに何も言わないまま倉庫で過ごす。
元々、二人は一緒にいても何かを話すという事はほとんどしなかった。今日はこれまでの中でも珍しい日である。
あくまで友という関係でなく協力者。目的のための手段であり、相手のために何かしようとう思想は持ち合わせていない。
さらに言うのなら、未だに相手が何をしたいのかも知らないままである。
ただ、そうであっても自分の失敗は相手を危機にさらす。それは面白くないので極力避けたい。
そんな思いがこの倉庫での関係を作り上げていた。
一人や二人で生活をするには十分な広さだが、馬に乗って歩くにはあまりに狭い室内。そこで今日の訓練を終えるとシューが「それじゃあ」とだけ残して戸を静かに引く。
(^ω^ )「……次、ここで会った時。考えを話すお」
そう答えて見送ると、シューの目が少しだけ大きく開かれた。




