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一行が門のすぐ傍まで来たところで、再び安房の区画へ向けて進路を取る。
周囲の視線からすでに敵意は消え、ニシカワの抱える大きな包みに対する好奇のものだけになっていた。
(´∀`)「こうして見ると、上総も下総も変わらないモナ」
( ^ω^)「たしかに、フタワの人達とも同じだお」
( ´_ゝ`)「どこの場所も民は皆しっかり仕事をしているんですね」
張り詰めていた緊張が解けると、ようやく周囲を観察する余裕が出てきたのか三人は思った事を話し合っている。
普段と変わらない、そんな雰囲気にようやく戻ってきたところでまたニシカワが足を止めた。
lw´- _-ノv「どうしたの」
ニシカワはシューに問いかけられても黙って前を睨み付けていた。
/^o^女\「こいつだ、こいつが盗んだんだ。私じゃないよ」
商人風の男に腕を捻り上げられた女が必死に叫んでいる。
女は街でよく見る造りの服を着ていたが、随分痛んでみすぼらしい。
髪を振り乱し、喉が裂けそうなほどに声を張って自分の無実を訴えている。
しかし、男はそんな言葉に耳を貸さずに女を店まで連れて行こうとしていた。
/^o^女\「本当だよ。だって、そいつは上総の民じゃない。私ら上総の者を苦しめてやろうって考えているんだから」
男の足が止まった。
/^o^男\「本当か」
/^o^女\「あぁ、本当だとも。しっかり見たよ。昨日こいつが別の区画から入ってくるのをね」
男が迷ったように女と、指差された先に居る者を交互に見る。
/^o^男\「それだけじゃ、分からんな。別の区画に行っていて、上総へ戻ってきたのかもしれん」
男が後から追いかけてきた小姓に女を預け、力なく座っている者へ近づいていく。
/^o^男\「おい、あんたは上総の民か」
声を掛けられても返事は無い。男がイライラしながら何度も同じ事を問うと、何度目かにゆっくりと首を横に振って答えた。
/^o^男\「決まりだな
座っている男とも女とも分からない者の腕を掴む。
(*゜ー゜)「……私は、盗みなんてしません。嘘だって、ついたりしません」
乱暴に腕を引かれて行き、一行の横を通る時に擦れる声で訴えていた。
だが、周囲からはそんな声を掻き消すほどの罵詈雑言が飛び交っている。
lw´- _-ノv「門の近くは排他的なだけじゃない。社会的な弱者が多く居るわ。だから常に腹の中には怒りがあってそれをどこかにぶつけたがっている」
軽蔑するようにシューが辺りを見回す。
lw´- _-ノv「八つ当たりだって構わないの。誰か、自分達より弱い者を見つけると攻撃したくなる。そんな事で今の生活を耐えている人達よ」
「追い出せ」や「帰れ」と言った声がしばらく続いた後、一行を戦慄させる言葉が周囲から上がる。
/^o^女\「殺せ」
一瞬、周囲が静けさが戻った。だが、すぐにその声に呼応し周囲からは「殺せ」という声が続き、どんどん大きく膨れ上がっていく。
商人風の男が困った様にため息をつくと、辺りで一番道幅のある場所へ行き、そこで突き飛ばすように手を話す。
瞬く間にそこには人の輪が作られ、その中心へ向けて大勢が「殺せ」と唱え続ける。
( ^ω^)「なんだか大変だな事になってるお」
(´∀`)「このままじゃあいつ殺されちまうモナ」
( ´_ゝ`)「あの様子じゃ盗みなんて出来ない事くらいすぐに分かるでしょうに」
三人がほんの少しの間黙る。
( ^ω^)「どうするお」
(´∀`)「やるしかないモナ」
( ´_ゝ`)「見殺しにするわけには行きませんよね。もしそんな事をしたらきっとイヨウさんとニンジャさんは怒りますよ」
( ^ω^)「武器は無いけど、とにかくあの人を連れて逃げ出せば良いんだお。きっと何とかなるお」
努めて明るく、答えなど決まっている様に会話をする。
三人の手足は明らかに震えていたが拳を握り、地面を踏みしめなんとか真っ直ぐ立ち続けている。
部外者の自分達がここで騒ぎを起こせばどうなるのか、手を出したせいで自分達が変わりに殺されるのではないかという事には触れないようにしていた。
( ^ω^)「……良し。行くお」
lw´- _-ノv「待って」
シューが三人が走り出す直前に声を掛けると、背中を押して店と店の間の隙間へ押し込める。
lw´- _-ノv「これを付けなさい。あなた達はここを出れば良いけど、ビイグルさんに迷惑が掛かるかも知れないんだから」
そう言ってシューが差し出したのは綺麗に染められた手ぬぐいだった。
( ^ω^)「……こんな感じかお」
(´∀`)「あぁ、十分だモナ。オトジャもちゃんと隠せてるモナ」
( ´_ゝ`)「それじゃあ……、いきましょうか」
三人の会話はいつもより大分早口だった。
ナイトウは緑、モナーは黄、オトジャは白の手ぬぐいをそれぞれ顔に巻きつけ、目以外はすべて覆う。
lw´- _-ノv「顔は……、大丈夫そうね。無理だと思ったらだったらすぐに逃げてね。捕まって顔が知られるたらまずいわ」
シューは余った紫と桃に染められた手ぬぐいをしまう。
lw´- _-ノv「あなた達は良い事をしても悪い事をしても、自分だけでは終わらない。仕えている騎士さんに影響が出るわ。政治的に弱い立場だったなら、下手を踏めばすぐに周りに潰される。領地や札を奪う機会を狙わない騎士なんていないもの」
ゆっくりと三人は頷き、人垣に向かって一気に走り出す。
すでに中心ではニシカワが何人も相手に暴れていた。
足元で倒れこんだ者に誰も近づけないように、四方を睨みながら襲い掛かってきた者から殴り飛ばす。
辺りを囲む町人達よりもニシカワの背丈は頭二つ分は抜け、体格は少なく見積もっても一回りは違った。
周囲にできた輪は拳で一人、二人と削られていく。あるものはしばらく呻いてから這う様に逃げ出し、またあるものは立ち上がる事なく倒れている。
返り血か、ニシカワの血か、赤く染まった体に真っ赤な手ぬぐいで隠された顔はまさに鬼だった。
/^o^男\「殺せ、そいつもきっとよそ者だ。上総の敵だ」
苦しそうに叫んだのは、騒ぎの中心にいた商人風の男だった。
/^o^男\「使え。これであいつを殺すんだ」
いつの間にか輪の外に居た男は、小姓が抱えている木製の農具を地面にぶちまける。口からは血が流れ、歯は欠けた痛々しい姿だった。
/^o^男\「金はいらん。いや、それだけじゃない。そいつを殺した奴はうちで雇ってやっても良い」
ニシカワの真っ赤な姿で薄れ始めた周囲の殺意が再び燃え上がる。




