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ブーンが兵士になるようです  作者: カジ
六話
30/50

6-4

ブーンはあの夜から数日たった今でも馬房守として生活していた。馬は王より下賜される貴重な生き物。その馬がいなくなれば、世話をする馬房守は当然必要なくなる。

だが、ブーンはこれまでと変わらず馬房で暮らしていた。

馬を盗まれるような事があれば、騎士の位が剥奪されてもおかしくない。命すら危ういだろう。

自分の雇い主がそんな事を公表するかどうか考えると、現状がどうなっているのかはブーンにも容易に想像できた。


(^ω^ )「うちの騎士さんは、隠し通せると思ってるのかお」


そこからさらに数日が経つと、今度はブーンが想像だにしない出来事がいくつか起きる。一つは、馬房に馬が居た。ブーンは七号から、これまでと同じように生活をするように言われていた。

その方がブーンにとっても都合がよいので、ニシカワのための果物と野菜を買うと倉庫に寄って屋敷に帰る。倉庫では食事を与えて、掃除をしてやる。できるだけ、狭い部屋の中でも体を動かせる様に手前と奥の部屋を行き来させたりもしていた。

それを終えて馬房に戻ると、ニシカワと良く似た真っ黒で少し硬そうな毛並みをした馬が、落ち着き無く歩き回っていた。


(^ω^ )「……ここまでやるかお」


/^o^7\ 「おぉ、帰ったか」


ブーンが振り返ると、七号が笑いながら馬房へ入ってくるところだった。


/^o^7\ 「いやぁ、よかった。なんでも別の区画まで行っていたらしくてな。上総区の商人が保護してくれていたらしい。怪我ひとつなく元気なもんだろ」


(^ω^ )「……それは、良かったですお」


/^o^7\ 「お前も一安心だろう。これで屋敷を追い出される心配も無くなるしな」


笑う七号から悪い印象は受けない。きっと本当に馬房にいるのがニシカワだと思っているのだろう。ブーンはそう感じると「助かりましたお」と笑って答える。たしかにニシカワと良く似ている。

これまでと同じように連れて歩いても誰も別の馬だとは気づかない。そもそも、別の馬に変わる事がありえないのだから疑いようがない。そのため、ブーンとの間に微妙な間隔を開けて歩く馬を見ても誰も何も思わなかった。


ブーンを驚かせたもう一つの出来事。その日は倉庫に戻る時、注意深く誰もいない事を確認するのを忘れていた。知らない馬を連れて買い物に行き、夜を待ってから馬房をでる。それを二日三日と続けるうちに警戒心が薄れていた。

辺りの闇が全てを覆い隠してくれる。ちょうど、そう思いだした夜だった。ブーンの中に生まれたほんの少しの慣れが、雲から顔を出した月の存在を忘れさせる。

倉庫へ入るとすぐに果物を沢山詰めた皮袋を下ろす。手早く灯りを用意して挨拶を済ました。ニシカワは小さく鳴いて答えるとブーンのすぐ前に来て座り込む。


(^ω^ )「退屈させてすまないお。さぁ、ご飯だお」


ブーンが一緒に持ってきた綺麗な布で果物を軽く磨いてやる。それを待ってから差し出されたものを口にするニシカワには警戒の色は全く無い。しかし、それと正反対にブーンの心は一気に動転し出した。


(^ω^ )「誰だおっ」


しっかり閉じたはずの扉が、小さな音を立てて開かれていく。


振り返るのが先か声を発するのが先か、小さな灯りを突き出し扉の方を睨みつけた。部屋の空気が一気に張り詰めるが、ニシカワは座ったまま落ち着いた様子で次の果物をねだる様に首をブーンに擦り付ける。人影が静かに扉を閉めると近づいてきた。


(^ω^ )「止まるんだお」


人影は一瞬止まる素振りを見せたがまた進み出す。腰に下げた短刀を左手に、頼りない灯りを右手ににぎりしめブーンは腰を僅かに下げた。

ブーンとニシカワまで後一歩か二歩という所で「何かあると思っていたけど。……こんな事してたとはね」と肩をすくめる。

女の声だった。不安さと何かに対する期待が入り混じった様な不思議な調子。それをブーンは不審に思ったが両手から力は抜かない。ブーンは意を決して一気に右手を相手の顔に触れそうな位に近づける。


(^ω^ )「おっ」


そこにはシューの顔が浮かび上がり、その表情はこれまで見せたことの無い笑顔だった。


「しまった」という言葉がはっきりとブーンの頭に浮かんだ。そして、少しの間を空けることなく「殺さなければ」と続く。右手に握った短刀を突き出すことが出来ないまま、いくらかの時間が流れた。


「あの時と同じ様にしてしまえ」


「いや、あれは死んでいない。殺してはいないはずだ」


そんな問答が脳裏で繰り広げられた。


lw´- _-ノv「やっと見つけた」


シューがブーンの横を通り抜け、ニシカワの前へ進み出す。シューの背が向けられた時に「今だ」と聞こえたが、ブーンの右腕はピクリとも動かなかった。


lw´- _-ノv「何をしようとしてるか知りもしないけれど、普通の事じゃ無い事は分かるわ。馬が居るし」


シューが恐る恐る手を出すと、ニシカワはそれを受け入れるかのように顔を近づけた。それを見てすっと腕を伸ばして首を撫でてやる。


lw´- _-ノv「この街から出るの?」


シューは背中越しに訊いた。


(^ω^ )「……そのつもりだお」


ブーンはためらったが、じっと見つめるシューに根負けし小さく答えた。


lw´- _-ノv「本当に?」


シューが勢い良く振り返ると、ブーンに詰め寄る。驚いたブーンは急いで抜き身の短刀が当たらない様に後ろに引く。


(^ω^ )「本当だお」


短刀を腰に戻す。その顔には、はっきりと諦めの表情が浮かび上がっていた。


lw´- _-ノv「この子を連れて、街を出るのは大変でしょう? 門兵も馬鹿ではないわ」


(^ω^ )「そのあたりは、少し考えているお。……むしろ問題なのは、シューにこの場所にニシカワがいるって知られた事だお」


ブーンがわざとらしく戸の前に立ちふさがるかのように移動する。


lw´- _-ノv「私の頼みを聞いてくれるなら口外しない」


(^ω^ )「おっおっ」


lw´- _-ノv「利害が一致したら、わざわざ不利益になる事は言わないでしょう?」


シューからは恐れの色が少しも感じ取れない。


(^ω^ )「頼みかお?」


lw´- _-ノv「そう、頼み」


ブーンは大げさにため息をついたが、シューはそんな事は気にしていないというように話し出す。


lw´- _-ノv「街から出たいのよ、私」


(^ω^ )「出れば良いお」


lw´- _-ノv「出れないのよ。私は街から出れないようになってるの。お店の主人は出来るだけ街の中でなら不自由しないように計らってくれているけどやっぱり駄目」


理解できていないブーンを置いてシューは話し続ける。


lw´- _-ノv「私は街から出たい。自由が欲しい。ここから出れば危険な事も多いでしょうけど、それでも私として生きたい」


一度街には入れたのなら出る事も出来る。それが出来ないという事がどういう訳か、ブーンは訊いても良いのか迷っていた。


lw´- _-ノv「とにかく」


シューがポンと手を叩くとブーンの意識は再び話に向けられた。


lw´- _-ノv「あなたが街から出るときに連れて行って。この子を連れて行くならどうせ真正面から堂々とって訳じゃないんでしょう?」


返答を催促するようにシューが続ける。


lw´- _-ノv「それだけで秘密が守られるなら安いものでしょう」

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