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夢の中で助けを求められた。
相手はの顔はどんなに目を凝らこらしてもわからなかったが、背は低く声は少年特有の高さが感じられた。
しかし、話しの調子は歳とは不相応に落ち着き重い。それが誰なのかはすぐに分かった。
ブーンは今の生活に心底飽きていた。朝から晩まで畑を耕す。合間には少しの食事を二度挟み真っ暗になれば眠りにつく。
父は最初から無く母が死ぬとすぐに商人に売られた。村に自分を養うだけの余裕がなかったのか、
単に小金が欲しかっただけなのかは分からないし、今となっては知るすべもない。その事に対する興味も、ここにきてしばらくすれば無くなっていた。
数年が経ち体がしっかりしてくると、より過酷な場所へ売られると聞いていたが、ついに明後日別の商人に引き渡すと告げられた。
( ゜∋゜) 「明日の朝には出立だ。なぁに、そう遠くはない。だが、明後日から畑を耕す代わりの小僧を買わんといかんからな。少しばかり早めに出るぞ」
商人はブーンの両手より少し長い鎖を首輪に結び付けると、反対側を柱に括り付け鍵を掛ける。仕事以外は常にこの鎖で柱に結び付けられるている。男の手際も慣れたものだった。
代わりに仕事用の畑端から端までは優にある鎖を外した。
(^ω^ )「助けに行くお」
( ゜∋゜) 「ん」
商人は特別巨体ではなかったが、がっしりとした体格だった。しかし、今のブーンの体格は背丈も体の厚みもそれを上回る。
( ゜∋゜) 「何か言ったか」
意外だったからか、男にははっきり聞き取れていたがつい聞き返していた。
(^ω^ )「助けに行くんだお。すぐに」
長い鎖を男の首へ巻き付け締め上げる。男は何か言いたげだったが言葉にはなっていない。ただ、空気が漏れる音だけが続く。
徐々に音が小さくなっていく。それが完全に消える直前、ブーンは男の首から鎖を解いた。
男はほとんど動かない。僅かに口から空気の出入りがあるようではあるが、泡を噴いて白目を見せている。
このままでは死んでしまうかもしれないが、それはブーンにとってはたいした事では無い様に黙々と絡まった鎖をほどく。
そのまま無言で男の懐をまさぐり見なれた鍵束を取り出すと何年もの間こんな場所へ繋ぎ止めていた鎖を外す。
箪笥から男の服の中で作りのしっかりしてそうな物を探して着替える。多少小さいがが着れない程ではない。
後は男がいつも大事そうにしている壷に入っている金を全て革袋へ移した。一緒に入っていた街への許可証は懐へ突っ込んだ。
(^ω^ )「今まで世話になったお。一応……ここまで育ててくれてありがとうだお」
心臓の鼓動と呼吸を確認してから、ブーンは革袋の金を少しだけ取り出し男の傍に置いた。
何年か耕し続けた畑を背に記憶を辿って歩みを進める。
男に買われた時、村から直接売られた訳ではなかった。大きな街の店に一度置かれ、そこであの男の目に止まった。
とりあえず、ブーンはそこへ向かう。人を売り買いするようなまともでない店がある位の方が、何かとできる事は多そうな気がしていた。
あの助けを求める声に応じる為には何をする必要があるか。それはまだ分からないが、少なくとも今のままでは無理な事ははっきりと分かっていた。
すぐに道に迷ったが、金は持っていたのでいくらでも手はある。まずは地図を買おうと決めていた。
最初に見つけた村に滞在していた旅商人の地図はなかなか詳細だった。
しかし、値段は地図の詳細さと比べるとかなり割高な金一枚だという。
こんな詳細な地図は滅多に出ない事。総だけでなく周囲三国の王都まで載っている貴重な物なのだと旅商人は何度も繰り返していた。
金一枚。一月の間、畑を耕してもとても手に入らない額だ。
ブーンは半刻粘ったが商人は譲らずついに言い値で買った。
他に地図のあてもなく、金に余裕がある。なにより時間が惜しい。
いそいそと革袋から金一枚を取り出して地図を受け取った。
金があるのに気が付くと、他に織物やら細工品を勧められたがブーンは軽く首を振る。
現在地を地図で示してもらうとすぐに村を出る。
日が少し傾く頃にはとりあえずの目的地が見えた。
巨大な円形の街。ここから見えるだけで入口は三つ設けられている。
それ以外は民家を縦に二つ並べたほどの高さの壁が内と外を隔てる。
遠くからその巨大で異常な円柱はすぐに見つかった。
地図にも巨大な円で街は記されている。国の中心よりやや南。
二箇所しかない、旧三ヶ国全ての国境が接していた場所。そこにできた街である。
(・(エ)・) 「許可証」
門を守る兵士が気だるそうに短く言った。
(・(エ)・) 「よし、通って良いぞ」
ブーンは許可証を受け取ると再び懐にしまう。
(^ω^ )「使えてよかったお」
許可証には何が書いてあるかは分からない。
だが、許可証のいる街は総には二つしかない。王都と今ブーンが足を踏み入れたツダの街。
自分にそう言い聞かせながらも、冷や汗が浮かび上がっていた。
仮に使えなかったとしても、追い返されるだけ。捕まるようなこそは無いはずだ。
そう頭の中で唱え続けた。
/^o^2\「はいはいお兄さん。ちょっと見て行ってよ」
(^ω^ )「おっおっ」
緊張から解放され、安堵しながらただ足を進めていると、前に男が立ちはだかった。
/^o^2\「面白い物から綺麗なものから汚い物からつまらない物までなんでもあるよ」
右手にある色々なものが雑に並べられている店を指す。
(^ω^ )「なにいってるんだお」
/^o^2\「兄さんは観光かい? いやぁ、そんな事はなかろうよ。門から入ってきた若い男。観光に来るのは金持ちのお子様位だ。
兄さんの姿から察するに悪いが金持ちの息子さんには見えないな。身なりは悪くはないが派手さがない。お供もいない」
ブーンはいきなり目の前に現われ、話続ける男に戸惑っていた。
/^o^2\「そうなると、考えられるのはお仕事と。商売人さ。ここで買った物を他所で売る」
/^o^2\「さぁ。さぁさぁ。うちの店は掘出し物がいっぱいだ。安くしておくぜ」
(^ω^ )「先を急ぐんで失礼するお」
ブーンは前で大げさな身振り手ぶりで話す男をかわそうとする。
/^o^2\「それは残念。まぁ、何か入り用になったら来ておくれ。うちは色々な置いてるからね。知りたいことがあったら教えてもやるよ。安くな」
(^ω^ )「その時はよろしく頼むお」
それだけ言ってブーンは前もしっかり見て歩き出す。
/^o^3\「お兄さん、商人さんだろ? いい焼き物があるんだ、見ていかないか。金持ちの好きそうな逸品なんだ」
/^o^4\「それよりもうちの鎧見てきなよ。男なら鎧くらい持ってないとね。腕の良い職人が作ってるから質は保証するよ」
/^o^5\「外から来たのかい? うちは他のどの宿よりずっと安いよ。その分狭くて汚いが死ぬ程じゃあない。どうだい?」
街に活気が溢れていた。
うっすら記憶に残る故郷の村を思い出そうとするが、うまくいかない。
それでもここまで活気のある村ではなかった気がする。むしろ誰もが下を向いて歩いている様な村だったと思う。
(^ω^ )「とりあえず色々見てから決めさせてもらうお」
店主達は積極的だったが素直に引き下がった。そしてまた別の通行人に声を掛ける。
(^ω^ )「さて、これからどうしたものかお」
街の中の通りは良く整えられていた。主要な通りには石一つない。等間隔で並んでいる木々の下に座って休んでいるとその理由はすぐに分かった。
整えられた道は、人と同じ位に荷車が行き交っている。そのどれもが、鎧であったり焼き物であったり交易品を載せて街を出入りしていた。
この街の中では荷車の通り道は気にする必要は無い、商人にやさしいつくりになっていた。
(^ω^ )「しかし、商人が多いお」
荷車を引くのは商人自身か、体の大きな下男。どちらにしても必ず、大きな荷物を運ぶ商人がいた。




