巻き込んだ国と巻き込まれた国
新世界暦1年1月2日 日本国 東京 総理大臣公邸
ようやくあれやこれやが済んで落ち着いたので公邸に戻ってこられた首相は、そのまま寝室に直行する。
普段なら夫人がいるのだが、当初の予定通り夫人だけ地元に帰っている。
首相になったところで議員であることに変わりは無く、後援会とかいろいろあるのは普通の議員と同じである。にも関わらず、元旦からいろいろと東京で行事が詰まっているので、年末年始でも地元には帰れない。
というか、そもそも地元にほとんど帰れない。
そこで、地元回りは夫人に頼る部分が大きくなるので、首相になってからは選挙以外はほぼ夫人に任せっぱなしである。
よって、この幽霊騒動もある総理大臣公邸には現在、警備を除けば首相1人だけという状況である。
「やっと寝れる・・・」
寝室に入り、スーツを脱ぎ散らかして、そのまま布団に入る。
夫人がいれば怒られて叩き起こされる行為だが、今ここにはいないので、すぐに深い眠りに落ちる。
外はすでに日が昇り始めている状況だが、結局大晦日の晩から今まで、ひっきりなしに会議会議会議だったので、泥のように眠る。
はずだったのだが
「総理!緊急事態です!」
なぜか先ほど別れたばかりの官房長官に叩き起こされる。
というか、こいつずっと一緒に会議でて記者会見してたのに、なんでこんな元気なの?という疑問が首相の頭の中を駆け巡る。
「なに?眠いんだけど?」
「それどころではありません!詳細不明の武装勢力が北海道枝幸町を砲撃して、上陸した模様です!」
一瞬官房長官が何を言っているのかわからず、返事が遅れる。
一拍遅れて状況を理解した総理は
「寝てる場合じゃねぇ!」
そのまま部屋を飛び出そうとして、官房長官に首を掴まれた。
「とりあえず服を着てください」
新世界暦1年1月2日 日本国 北海道枝幸町 自衛隊旭川地方協力本部枝幸地域事務所
人数の割に無駄に広い事務所の真ん中で、ストーブの上に置かれたやかんが湯気を出している。
「いやぁ、すっかり溶けちゃいましたねぇ」
事務所で一番若い秋津三曹が外を見ながら言う。
普段なら仕事しろよと言うところだが、実際、これといってすることは無い。
日本が巻き込まれた異常事態で、自衛隊全体が待機状態になったので出勤しているだけである。
唯一仕事をしていると思われるのは、連絡要員として町役場に行っている深山二曹くらいだろう。
まぁ、行っても電話の前で座っているしかすることはないだろうが。
「そうだなぁ。まさかほんとに溶けちまうとは」
特に意味も無く眺めていた今年の担当地区からの受験予定者リストを置いて、高橋曹長は秋津三曹の横から外を眺める。
本来ならブリザードやホワイトアウトが当たり前の時期だが、雪はほとんど溶けてしまい、建物の影などにわずかに残るばかりである。
「山の方はさすがに残ってるなぁ」
「冬季レンジャーはできそうで良かったですね!」
「バカなこと言ってんな」
秋津三曹の軽口を受け流した高橋曹長だが、その制服には燦然と輝くレンジャー徽章と冬季遊撃徽章がついていた。
数年前まで泣く子も黙る鬼教官だった高橋曹長も、定年を前に故郷で募集任務にということで枝幸事務所に配属になっていた。
空出身の秋津三曹にとっては、穏やかないろんな相談にのってくれる上官だったが、陸出身で冬季遊撃徽章を持っている深山二曹にとっては今でも地獄の鬼教官らしく、高橋曹長と話すときはいつも直立不動でアリマス調なのはもはや事務所内の名物だった。
「キミらねぇ、一応待機中なんだからもうちょっと緊迫感を持ちなさいよ」
事務所の責任者である山田一尉が外を眺めている2人を窘めているが、その本人が爪を切っているので説得力は皆無である。
「待機とは言いましてもねぇ・・・」
自衛官募集のための田舎の地域事務所であり、拳銃すらないこの場所で即応待機する意味はあるのか?という話である。
まぁ災害派遣なら役には立つだろうが。
「ごめんくださーい」
と、こんな時期に来客である。
本来なら事務所は休みなので、募集資料を貰いに来たわけではないだろう。
「はい、今行きます」
高橋曹長が事務所というより民家じゃないのか、という建物の玄関に行くと、制服の警察官が1人立っていた。
「どうかされましたか?」
災害派遣の訓練で警察と一緒に動くことはあっても、普段警察と一緒に何かやるということはまずないし、事務所に警察官が訪ねてくるなんてことはこれまで一度も無かった。
「いや、すいません、なんか漁港の連中がね、沖にでっかい軍艦がよーさんおるっちゅうて騒いどるんですわ。テレビではロシアは無くなったちゅーとるし、自衛隊の船じゃろうから騒ぎなさんなというとんじゃが、あんな船は自衛隊に無いっちゅうて聞きよらんのです」
警察官の言葉に怪訝な顔をする。
「そんなに多いんですか?」
「けっこうな数がいてますね。んで、うちらが言うても聞きよらんので、自衛隊さんが見て言うてもらえんやろかと思って」
こんな場所の沖に海自の艦が大量に来るなんて考え難いんだがな、と思ったものの、漁港で騒いでいる漁師たちに手を焼いているらしい警察官を見て見ぬふりというのも、よろしくないだろう。
それに、沖の船というのが何なのかも気にはなるということもあり、警察官と漁港にいくことにする。
「山田一尉、ちょっと出てきます」
「はいはい、聞こえてましたよ。一応、こっちも聞けるところには聞いておきましょう」
それがわかるところまでいったいいくつの伝言ゲームが必要なんだろう、とは思っても口には出さない。
「行ってきます」
帽子を被り、双眼鏡を持って警察官に続いて外に出るとパトカーが停まっていた。
漁港までなんて500m程度だろうに。
「いやぁ、すいません。あいつら、この気候なら漁にでれる!って言ってたら、国から周囲の状況がわかるまで瀬戸内と青函以外は民間船航行禁止、って通達でちゃったせいで鬱憤が溜まってるんですよ」
「いやぁ、気持ちはわかりますよ。本来なら直に流氷がどうこう言ってる季節ですからねぇ」
パトカーの後部座席に乗せられて、漁港に向かう。
なんか悪いことした気分というか、陸自の制服を着ているので絵面が良くない。
こんなところを妻に見られたら笑われそうだと思っていると、すぐに漁港についた。
内側からは開けられないので、ドアを開けてもらって外に出る。
見ると、確かに、堤防に人が集まって海を見ている。
「ほら、お前ら、自衛隊さんに来てもらったから、見てもらったらさっさと家に帰るんだぞ。まだ正月三が日だっちゅうのにこんなところでいつまでも騒いでんな」
俺海上自衛隊じゃないんだけどなぁ、と高橋曹長は思ったが口には出さない。
こういうのは堂々として自信をもって宣言すれば、たいがいどうにかなるのである。
堤防の上に立って双眼鏡を覗く。後ろで漁師たちが騒いでいるが無視。
双眼鏡に何隻もの船が映る。
あれは・・・上陸用舟艇?
視界を横に振っていくと、大きな船も目に入った。
専門ではないので軍艦に詳しくはないのだが、それでも一目でわかる。
海上自衛隊の護衛艦“ではない”
どちらかというと、小学生の頃につくった太平洋戦争時代の戦艦に近いシルエットである。
背中を嫌な汗が流れる。
これからすべきことは何か?
まずは上への報告、いや、上陸用舟艇がいる以上、ここに上陸する気だろう。まずはここにいる人たちを避難させなければならない。
などと考えていると、双眼鏡の中に変化があった。
戦艦らしき艦から大きな煙があがったのである。
規模は違えど、演習でさんざん見た煙である、どうするべきかは体に染みついていた。
堤防から飛び降り、声の限り叫んだ。
「伏せろ!耳を塞いで口を開けておけ!」
は?という顔をしていたのがほとんどだったが、何人かは意味に気付いたのか慌ててその場に伏せていた。
ドドンドン と太鼓のような、雷にも聞こえるような、「遠くの大きい音」とわかるそれが辺りに響くのと、すぐ近くで炸裂した砲弾が爆音を響かせて、周囲に破壊をまき散らしたのは同時であった。
爆発の熱風すら感じられる距離。
見ると市街地から爆発の煙があがっている。曳火射撃ではなく、着発信管のようだ。
だが、あの方向は町役場のはずだ。さきほど出てきた地域事務所も近い。
いや、今はそんなことよりも、するべきことがある。
高橋曹長は素早く周囲を見回す。
伏せなかった人間も被害はないようだが、耳を塞がなかったせいでバカになってしまっているようだ。
そして、一緒にきた警察官は完全に腰が抜けてしまっている。
「すぐにここから避難してください!海沿いは避けて、内陸、山の方に入るように!」
「か、家族を迎えにいかねぇと!」
「山の方つっても道がねぇぞ!」
海沿いの国道から内陸に入る道としては県道があるが、その分岐は市街地南側の砂浜の正面にある。
どう考えても敵が上陸してくるポイントである。使わせるわけにはいかない。
「道道を使わずに歌登地区を目指せ!墓地の奥の林道から抜けられるはずだ!」
それだけ言うと、腰を抜かしている警察官をひっぱたく。
「今お前がすべきことはなんだ!」
警察官ははっとした顔になり、仕事の顔が戻ってくる。
「本部への連絡です」
「すぐにやれ!」
そういうと警察官はパトカーに向かって駆け出した。
「至急、至急、枝幸3から本部、枝幸3から本部!」
『こちら本部、枝幸3どうぞ』
「枝幸町枝幸漁港沖に所属不明の大量の船舶が出現、現在枝幸町を砲撃中!被害は不明!なお、武装勢力を上陸させる構えの模様」
『こちら本部、枝幸3、報告の詳細が不明、再度の報告を求む』
まぁ、そりゃそうだろうなという問答が北海道警の本部との間で交わされているが、その間にも正体不明の戦艦の発砲は続いており、街の被害は拡大している。
「だから!謎の戦艦が現れて市街地を砲撃してるんだよ!軍隊も上陸する準備をしてるんだ!至急自衛隊を応援に寄こせ!」
何度目かの問答でキレて無線を叩きつけていた。
「とりあえず君は警察署に戻って住民の避難を」
「あなたは?」
警察官をパトカーに押し込む。
「役場に行ってみる。防災無線が流れないところを見ると望みは薄そうだが」
「役場は警察署の横です、急ぎましょう」
今度はサイレンを鳴らしてパトカーで来た道を戻る。
が、役場の手前の区画までしか行けなかった。
「この区画に警察署があったはずですよ・・・」
そういう警察官の手と声は震えていた。
「あそこに役場もな」
そう言ってから、役場には深山二曹がいたはずだと思い至った。
どの瓦礫が役場だったのかもわからない、というかクレーターになっている状態である。
感情をかみ殺してパトカーを降りる。
「どこへ!?」
「事務所に戻る。君はこのままスピーカーで避難を呼びかけながら、さっき言ったように墓地の奥の林道へ向かえ」
そのまま走り出す。
広報官になってから、明らかに部隊にいた時より体力は衰えているが、同年代に負けることはまずないし、そこらの陸士にだって負けない自信はある。
落ちてくる砲弾の数がかなり減ったように感じる。
上陸が近いということだろう。
とはいえ、さして広くも無い街はすでにそこら中にクレーターができて区画ごと吹き飛んでいる。
やがて、枝幸地域事務所が見えてくる。
どうやら無事なようだ。
そのまま走って、玄関の扉を開ける。
そこには荒れ果てた光景が広がっていた。
裏口側に砲弾が落ちたのだろう、玄関付近の部屋を残して、建物は吹き飛んでいた。
「クソ野郎がぁ!」
見えない沖にいる軍艦に向かって高橋曹長は吠えた。
だが、今の自分には小銃はおろか、防弾着すらない。
ここにいてもできることはない。
脱出して、避難を手伝おう。
そう思って事務所の外に出ようとして、ふと私物のスマートフォンに目がいった。
妻は家にいるはずだし、家は隣の浜頓別町なので、心配する必要はないのだが、気になったのである。
「通信できてる?」
最悪ジャミングや基地局がやられているかと思っていたが、問題ないようである。
そして、今更、なぜ海岸で写真を撮らなかったのかと後悔する。
とりあえず、事務所と周囲の写真を撮って、自分が知る最も中央に近い人間に送信する。
送信できたことを確認したら、共同訓練で何度も一緒になったが、同じ部隊になったことはないその上官の電話を呼び出すのだった。
新世界暦1年1月2日 日本国 北海道枝幸町沖 アズガルド神聖帝国輸送艦「エルムト」
「最悪だ・・・」
本国からの通信を受けた上陸部隊指揮官アルノルド中将は、頭を抱えていた。
何が悪かったかと言えば、タイミングが悪すぎた。
いったいどこの世界に、上陸作戦を敢行するタイミングで世界が入れ替わってしまうかもしれない、なんていう想定をして作戦を立てる人間がいるのか。
それもよりによって、大規模に陽動を行ったうえで、徹底的に秘匿された奇襲上陸作戦である。
奇襲部隊の存在を秘匿するため、電波封鎖を徹底し、万に一つも電波を出さないために全艦の無線機の電源も切っているという念の入れようだった。
無線機の電源を入れるのは、砲撃開始後、上陸準備が整ってからとされていたことが事態の悪化に拍車をかけた。
明らかな市街地に砲撃しており、言い訳のしようもない。
上陸用舟艇はすでに発進してしまっており、止めるように指示はしているが、そもそも中止が考えられていなかった乾坤一擲の大作戦である。
200隻以上の上陸用舟艇が狭い海域に密集しており、ただでさえ混乱していたのに、中止命令が伝わったり伝わらなかったりで、進もうとする船と戻ろうとする船で統制がつかなくなっている。
いっそ上陸させてしまえ、という悪魔の囁きが聞こえるが、相手の国力も戦力も不明である。
タカ派筆頭のイケイケなら躊躇わずに上陸作戦を続行するのだろうが、この作戦を成功させるために選ばれたのは、慎重に事を準備して進めることに定評のあるアルノルド中将だった。
まぁ、そういう性格だからこそ徹底した秘匿が求められるこの作戦の指揮官を任されたわけだが。
「本国から新しい電文です」
「読め」
「はい。“中止命令を撤回、作戦を継続せよ”以上です」
「参謀本部は気でも狂ったのか!?」
アルノルド中将は思わず声を荒げた。
「おそらくですが、占領した土地を持って交渉に臨む気ではないかと」
「そんなことはわかっている!」
やっちまったもんは仕方ないから、占領地を広げて、それ返還するから講和しようと持ち掛ける、一種の居直り強盗をやろうというのである。
「ここで止めて頭を下げればまだ一縷の望みはあるというのに、占領してしまえば言い訳もできんではないか」
「その“頭を下げる”のが嫌だと考えたのではないですか。今の内閣はタカ派ですから」
200年も海外領土を巡ってホリアセ共和国と戦争を続けているアズガルド帝国は、いくら本土に数ヶ月前まで戦火が及んでいなかったとはいえ、国力は疲弊している。
もはやその状態が当たり前なので、疲弊していると思っている人間のほうが少ないが、この状態で力を蓄えた同等の国力の国と当たれば、実戦を続けている軍の練度以外に勝るものはないだろう。
「上陸せよというからには、航空援護は予定通り来るのだろうな」
「野戦飛行場を設営せよとの催促もきています」
「海軍は?」
「砲撃はこれ以上必要なさそうなので、予定通り一旦本国に戻って第二陣を輸送するとのことです」
戦線を拡大しようとする本国の意思に、中将はうすら寒いものを感じる。
敵の情報が何もないというのに。
「司令部を上陸させる。設営を急がせろ」
とはいえ、仕事に忠実なアルノルド中将は不安を抱えたまま、指令を完遂することを目指すのだった。
新世界暦1年1月2日 日本国 東京 某所ホテル
「急な呼び出しに応じていただき、誠にありがとうございます」
非公式の会合に集まっているのは、政府から内閣総理大臣、官房長官、財務大臣、外務大臣、防衛大臣、国土交通大臣、他に与党と連立与党からそれぞれ幹事長、与党と政策連携を行うことがある保守系野党からも同じく幹事長が来ている。
「この会議の中のことは記録に残りませんし、口外しないようお願いいたします」
「俺まで呼んどいて今更やな」
室内で唯一与党ではない野党幹事長の萱嶋は笑った。
「しかし、なんや別の世界に転移やとか言うてたと思たら呼び出しとは」
「この後、今日付けで臨時国会を緊急招集しますが、そこでの決議に賛成いただきたいのです」
時間がないといった感じで総理は切り出した。
「えらい、直球で来たなぁ。まぁこの時期に緊急でってことは、転移絡みのことなんやろうけど、内容は?」
「先ほど内閣総理大臣の権限で命じた防衛出動命令を承認いただきたいのです」
「ぶほっ」
いきなりの発言に萱嶋は飲んでいたお茶を噴き出した。
「時間がありません、この後の記者会見で防衛出動命令と国会の召集を発表して事態を説明します」
「まてまてまて、防衛出動いうて、相手は何でどこでどうなっとるんや」
すでに知っていた閣僚は真剣な眼差しだが、まだ話を聞いていなかった与党幹事長2人も目を剥いている。
萱嶋はそれを見て、いかに自体が切迫しているのかを理解した。
なんせ、与党の説得と野党の説得を同時にしてしまおうと言うのである。
「相手は不明ですが、北海道北東部に出現した未知の国家と思われます。すでに北海道枝幸町に上陸され、艦砲射撃を受けた同地ではかなりの死傷者がでているようです」
「なんやと」
それまでのどこかふざけた雰囲気から一変して、萱嶋はドスの利いた声を出す。前職はヤ印だったとか言われる由縁である。
「突然の事態にも関わらず、外交チャンネルを開こうともせず、いきなり数万の軍勢を上陸させてくるような即応態勢をとっているということは、かなり好戦的な国だと思われます。今は相手との話し合いのチャンネルを開くことよりも、国民の生命、財産を守ることを優先すべきと考えます」
総理は一気にまくしたてる。
「そりゃ、それが事実ならまとめるまでもなくうちの党は賛成にまわるだろうけどよ・・・」
「待っていただきたい!我が党としては話し合いもすることなく、いきなり武力というのは容認できない!」
反対意見を述べたのは連立与党の幹事長である。
「いきなり武力もなにも、向こうが話し合う気ねぇんだからどうしようもねぇだろ」
萱嶋は三白眼で連立与党幹事長を睨みつける。
「その通りです、何よりすでに攻撃を受けているのです。理想論を語っている間にも国民は殺されるのです!」
総理が珍しく強い口調で連立与党幹事長に迫る。
「そもそも、なぜ上陸されるまで自衛隊は気付かなかったのですか!?おかしいではないですか」
「それについては調査中ですが、周辺の未知のエリアの探索に重点を置きすぎて、通常の哨戒任務が疎かになっていたのは事実です。防衛大臣として責任を痛感する次第です」
インドネシアとブルネイが見つかったので、原油は供給されそうという見通しはあるものの、青函トンネルや関門トンネルといった、海底トンネルが消失している現状では、地下がそのままという保証もなく、燃料は節約するよう指示が出されていた。
とはいえ、命令のでている周辺状況の調査は必要なので、必然、急な事態でいきなりの敵対行動はなかろうということで、通常の哨戒飛行が中止される結果になっていた。
「ひとつだけ確かなことは、いまこうしている間も事態は悪化しているのです。国民を守るためにもご理解いただきたい」
連立与党の反対があっても、与党と保守系野党で押し通る。その覚悟を持って総理ははっきりと決断を迫ったのだった。




