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クラウンクレイド  作者: 茶竹抹茶竹
【23章・呼び声に応えて/弘人SIDE】
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『23-3・Insanity』

23-3



 弘人が寝かされていたのは建物3階のフロアであった。廊下に飛び出して、地下フロアへと至るルートを探す。だが、弘人の行く手を阻んだのは大量のゾンビの群れだった。何れも白衣姿をしており、元はこの施設で働いている研究員達であるようだった。地下フロアの緊急事態とはこの事かと思ったが、ゾンビ化が進み過ぎている。その身に付けている洋服の損傷具合からしてもここ数日以内に感染した様にも見えなかった。

 外部からの侵入だろうか、いやそもそも施設内で感染が拡がっていたということではないだろうか。弘人は踵を返し、来た道を戻る。足の遅いゾンビを置き去りにして、別のルートを探した。

 屋内階段の場所を見つけるも、ゾンビの群れが廊下を塞ぎながら此方へ向かってきていた。近くの部屋へと弘人は飛び込み扉を閉めた。

 部屋は小さめの個室であり、机と椅子とちょっとした小物だけが置いてある。机の上に置いてある手帳を開いてみた。


 走り書きが多く乱れた文字を読むのに多少苦労したものの、その内容を読み解くことは出来た。そして、内容に弘人は驚愕し、無意識の内に手帳を握り締めていた。


 端的に述べるなら、この施設内で起きた感染拡大は意図的なものであった。

 ヒトにしか感染しないこの特殊なウイルスについての研究を行うにあたって、研究者達は「サンプル」を必要とした。生存の為の物資が足りなかった事もあり、施設内にいた人間にウイルスを感染させたという。その中心に居たのは三奈瀬優子とその助手の千葉であった。


 三奈瀬優子が執着していたのは血清の作成だった。ヒトにしか感染しない、そして外部とのコンタクトも取れない。そんな状況下だからこそ、血清の作成の為に人間を犠牲にする。その狂気じみた行動に、多くの人間が嫌悪感を抱き反対した。しかしそんな人間を無視して優子は強硬手段を取ったという。


 最初は数人だった、だが皮肉にも。その一件が生存者達に火を点けて、狂気は一気に加速した。ウイルスの解析が進むにつれ、救助が絶望的になるにつれ、物資が減っていくにつれ、その狂気は蔓延し膨らんだ。生存の為に、生存者同士は互いを蹴落とそうとした。生き残りをかけて他人をゾンビに変えていったのだ。当初ゾンビはサンプルとして収容されていたが、そのスペースを圧迫し、崩壊した後に施設内をゾンビが埋め尽くしていった。それでも、三奈瀬優子と千葉はその事態にも動じずに研究に没頭していったという。自らが感染することを全く恐れていないその姿に、生存者は徐々に心酔していったという。


 手帳の持ち主は生存者の一人であったようで、その狂気が蔓延していく様子を淡々と、けれども鮮明に書き連ねてあった。記述は血清が完成する寸前であることまでを記す部分で終わっており、それ以降は白紙だった。持ち主がどうなったのかは、あまり考えたくないことである。


「姉さん……そんなのおかしいだろ」


 手帳を机の上に戻して、弘人は部屋を出た。やり過ごしたゾンビの群れは何処にも見当たらず、弘人は屋内階段へと向かう。施設内の職員の数は不明であるものの、少なくともゾンビと遭遇する可能性は大いにあるのだ。一気に地下フロアまで駆け抜ける事にした。


 ゾンビの群れをやり過ごして階段を一気に下り、弘人は地下フロアへと到達した。屋内階段は、廊下との間を重厚な扉で仕切られていた為、ゾンビとは遭遇せずに済んだ。地下フロアは、ドアだけが並ぶ殺風景な廊下が続いていた。

 大きな音が遠くから鳴って、弘人はその音の方へ進む。廊下の角を曲がった先で見たのは、部屋のドアを破り出てきた大型ゾンビの姿だった。何度か遭遇したことがある。知能が残っており、肉体も強化されているタイプのゾンビだった。共通している特徴通り、肉体は激しく隆起し、その胸元には強靭な心房が露出している。

 その右腕は血で染まり、人の死体を引きずっている。それは白衣姿の死体であり、それが床を引きずられていく度に、ねっとりと血の跡が廊下に描かれる。

 だが、それよりも。弘人はその大型ゾンビの顔を見て息を呑む。


「香、苗……!?」



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