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クラウンクレイド  作者: 茶竹抹茶竹
【22章・絶えず光を放つのは/祷SIDE】
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『22-3・同種』

22-3


 まずは建物の最上階である五階を目指す事に決める。上を見上げても視界は届かず状況は見えない。階段を駆け上がるも、途中で息が切れて。三階の踊り場で、私は一度膝に手を付いて呼吸を整える。各階の扉は閉じられていて、行き先が定められている袋小路に迷い込んでしまったかのようで。乾いた空気が微かな異臭を孕んでいた気もしたが、気が付けば区別がつかなくなっていた。

 数秒、私に遅れて追い付いてきた明瀬ちゃんが、私に切羽詰まった口調で叫ぶ。


「祷!」

「何!?」

「ゾンビだ!」


 明瀬ちゃんの叫んだ声と同時に、その背後で金属を強く叩く盛大な音が鳴って。その一瞬、高校の廊下でも似たような光景を見たな、と思い出す。あの時も、私が明瀬ちゃんの先を行って。その後ろで無数の呻きが私達を追いかけてきていて。


 踊り場にあった通路と階段を結ぶ重厚な扉が、盛大な音を立てながら突如として開いた。私は咄嗟に、明瀬ちゃんの手を引っ張り階段の上へと跳び退く。雪崩れ込んで来たのは無数の白衣姿で、それが彼等であることを判断するのに時間は掛からなかった。

 ゾンビの群れは扉の入り口を塞ぐほどに溢れていて、一瞬にしてその雪崩は踊り場を埋め尽くす。階段の上に退避した私は、明瀬ちゃんに先を行かせて杖を構える。ウォーカーであれば、階段で足止めされる。問題はスプリンターだった。


「闇より沈みし夜天へと、束ね掲げし矢先の煌、狭間の時に於いて祷の名に返せ」


 ゾンビの群れを抜け出して、飛び跳ねるようにして階段を昇ってくる一体がいた。

 私は杖を払う。轟、と空気を震わせて。その一瞬で空気を焼いて。私の目の前で、空中で、火の手が上がった。


「穿焔-うがちほむら-」


 炎の塊を打ち当てて、走り込んで来たスプリンターは吹き飛んでいった。落下していくその燃える身体が、階段の下を埋め尽くすゾンビの群れへと呑み込まれ、そして周囲のゾンビへと引火していく。呻き声が炎の爆ぜる音と混ざり、焦げた臭いが染み出す。

 私は咄嗟に踵を返して、先を行く明瀬ちゃんに聞く。


「何で分かったの!?」

「呻き声が聞こえたから」

「私には聞こえなかった」

「なんか最近耳が良く、て……」


 明瀬ちゃんがその言葉を発しながら、階段で足を滑らせた。階段の途中で崩れ込む。私が駆け寄ると、明らかに様子がおかしい。手をやると発汗と発熱の症状があった。呼吸が乱れていて、目の焦点が定まっていない。


「明瀬ちゃん!?」

「へ、平気」


 私が抱き起そうとすると、その手を払って明瀬ちゃんはゆっくりと立ち上がる。触れた時に感じたが、かなりの高熱だった。心配になるが、此処で足を止めるわけにもいかなかった。

 足取りの重い明瀬ちゃんに肩を貸して五階まで昇りきり、階段の下を覗き込む。呻き声が無数に重なって反響してくるが、ゾンビが昇ってくる気配は見えない。この高さまで昇ってくるのはかなり時間がかかる筈だ。


 出来れば戦闘は避けたかった。屋内で大規模な魔法は使いづらい。私の魔法は炎に関連するものしかない以上、火災の危険性を絶えず孕んでいる。

 五階に続く扉に、明瀬ちゃんがそっと耳を近付けた。親指を立ててきたので、私は杖を構えて明瀬ちゃんがゆっくりと扉を開いた。重厚な扉が金属の軋む音を立てて、私はゆっくりとその先へと足を踏み入れる。

 短い廊下の先に、また一つ扉があり、その先へと進む。サイレンの音はいつのまにか消えていた。私達が着いたのは広い部屋、というよりもホールであり、微かに刺激臭の混ざる空気が肺を満たす。


 クリーム色で塗られた床と壁。天井はずっと奥まで続いていて、五階部分の殆どがこの部屋になっているのではないだろうかと思った。非常灯になっているのか、微かに天井の灯りが点いているきりで、窓の一つもない部屋は薄暗い。部屋の両壁にはスチールの棚がずらっと並び、部屋の向こう側には別の扉が小さく見える。部屋の中は長机とパイプ椅子が整列して並んでいて、席数はざっと目算で300席程はある。

 会議室か何かの用途の為の部屋だろう。


 目論見が外れた、そう思って戻ろうとした私はそこで足を止めた。部屋の隅の扉が開き足音が聞こえてくる。部屋の奥、私達の居る場所とは真反対の場所の扉、そこから出てきたのは白衣姿の女性だった。彼女は私達の姿を認めて、此方へと歩いてくる。彼女のヒールが立てる規則的な音が続く。

 私は咄嗟に、杖を向けた。彼女の目に、何か危険な雰囲気を感じた。この感じを私は知っている。その瞳に見える感情の種類を知っている。

 この人は、多分、恐らく。

 私達の存在に、彼女は驚いた表情を見せて。しかし、それでも動揺した気配のない声で言う。


「私は三奈瀬優子と言う。君達はどちら様かな」


 私と同じ種類の人間だ。



【22章・絶えず光を放つのは 完】


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