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クラウンクレイド  作者: 茶竹抹茶竹
【14章・光を求めて/弘人SIDE】
52/220

『14-3・One's first 』

14-3


 結局、ゾンビの生態についての答えは出ず、会話はそこで途切れた。弘人は姉の事を思い出していた。姉ならば分かるのだろうか。姉も、同じような事を考え研究に勤しんでいるのだろうか。

 弘人の想像は、そんな姉の姿をハッキリと描き出していた。其処には、姉の死の可能性など微塵も混じらなかった。強く生きている筈だという強い確信が、弘人にはあった。


「そうだ、私達ヘリを見たんです」


 三人の沈黙を破って、祷が思い出したようにそう言った。北から西へと飛んでいくヘリの機影を見たらしい。弘人にも、思い当たる節があった。


「こっちでも何度か見かけてる。ただ、発煙筒に反応しないんだ」

「そうですか」


 祷が明らかに落胆する様子を見せた。しかし、何度かヘリの機影は確認していることを弘人が補足すると、祷は少し表情を明るくした。

 食料が尽きつつあった二人は、ヘリを目撃したことで救助の可能性を見出し移動をしてきたのだと言う。ヘリはともかく、食料に関しては今のところは不安はないと弘人は断言した。人数が二人増えたとしても二ヶ月分の貯蓄はあった。

 そんな会話をしていた弘人達を、香苗が呼びに来た。フロア中央のテーブルに戻ると、食事が並べてあった。


「こんなに、ありがとうございます」


 明瀬が食事を見て驚いた声を出した。弘人の目から見ても普段と比べて、非常食が中心とは言え豪華な物になっている。二人への歓迎の気持ち、という香苗の言葉に祷が頭を下げて応えた。

 缶詰のソースを和えたパスタと、生地を練って作った簡易なピザ、屋上に作った家庭菜園の野菜を利用したサラダと並んでいた。目を輝かす明瀬に、梨絵が鼻高々に言う。


「これはねー、梨絵が作ったんだよ」

「え、ホント? どれどれ?」


 梨絵の言葉に、明瀬が明るく返した。明瀬の反応に気を良くして、梨絵がピザとサラダを指差しながら楽し気な会話を始める。明瀬の少しオーバーな喋り方と、顔いっぱいの笑顔を梨絵は随分気に入った様で、香苗と明瀬に挟まれて梨絵は普段よりお喋りになっていた。

 祷が食事を前に、素直に驚いていたようだった。


「凄いですね」

「電気が使えるからな」


 食事の場に遅れてやってきた鷹橋が、席に着きながらそう言った。鷹橋の言葉を受けて、桜が口を開く。彼女が手の平の上で広げると、青白いパルスが走った。


「さっき少し喋ったけど、改めて言うわ。祷は魔女について知っているようだったし。あたしは電気を操る事が出来るの」

「電気?」

「祷とはまた違うタイプなんだね」


 明瀬の言葉に弘人は愕然とした。明瀬にそう言われた祷が、桜と同じ様に手を広げる。何も持っていないその手の平の上で、微かな炎が空中で灯った。着火出来る物も、燃料になりそうな物も何もなく、しかし祷の手の平の上では火が燃え続けていた。


「私は炎が」

「君も魔女だっていうのか」

「一応は」


 魔女という存在が同じ場所に揃う確立に弘人は少し動揺していた。正直な話、桜の話を聞いても何処か信じきれない部分がある。それ程までに、この世界には魔法というものが介入できる余地はないのである。そんな稀有な存在が、この場所に二人も揃ったのはすごい確率なのではないだろうか。


 弘人がそんな事を思いながら、ふと鷹橋を見ると彼の表情も驚きのものに変わっていた。それだけでなく、気分が高揚している様にも見える。鷹橋もああ見えて、意外と魔法という非科学的な存在に憧れていたのかもしれないと弘人は思った。

 香苗がコップにジュースを注ぐ。


「魔女でも何でも、此処で出会えた縁に感謝しましょ」


 香苗がそう言うと、明瀬が何か思い出したようで鞄を持ってくる。瓶に入った酒を取り出す。赤ワインと焼酎だった。道中のコンビニから拝借してきた、と彼女は言った。ホームセンターにはアルコール飲料の類は無く、貴重なものではあった。


「それ、本物の酒か?」

「はい。私達は未成年なので、良ければ鷹橋さんに」


 明瀬の差し出したワインの瓶を、鷹橋はゆっくりとぎこちなく受け取った。何も言わずそのラベルを何度も読み返している。手が微かに震えているようで、それほどまでに嬉しかったのかと弘人は思った。だが、鷹橋は口を開ける素振りを見せない。


「鷹橋さん?」

「いや」

「お酒お嫌いでした?」

「そうじゃなくてな、その、今まで呑んだことがなかったもんでな」


 鷹橋からは意外な言葉が返事として出た。正直な所、意外であった。彼の人柄して酒を?んだことがないというのは、あまりにも「似合わない」気がしたのだ。30代の男にしては奇妙ではなかろうか。宗教的な戒律かと思って、弘人が助け舟を出そうかとすると鷹橋は、声を震わせる。


「そうか、そういうのもあるのか」


 問い返すよりも前に、鷹橋が意を決したように瓶の中身をグラスに勢いよく注いだ。それを見て梨絵が頬を膨らませて声を上げる。


「梨絵もほしーいー!」

「あれはお酒だから、梨絵ちゃんはジュースね」


 香苗がそう宥めて、明瀬が笑っていた。そして、全員で乾杯をする。新しい仲間の為に、そんな乾杯の言葉に、祷の表情が少し曇った様に見えた。


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