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クラウンクレイド  作者: 茶竹抹茶竹
【14章・光を求めて/弘人SIDE】
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『14-1・Famished』

【14章・光を求めて/弘人SIDE】



14-1


 弘人達が籠城しているホームセンターは、その2階フロアに生活の場を限定している。2階フロアに繋がる屋内通路は全て家具や木材等を用いたバリケードによって封鎖されており、今まで侵入を許したことはない。出入りは窓からの縄梯子に限定しており、それも日常的に使っていなかった。

 2階フロアの中央辺りに、4人掛けのテーブルを二つ並べて共有スペースとしていた。そこが全員が集合する場所であり、食事もそこで取る事にしていた。元々は家具や生活雑貨の売り場フロアであった事もあり、ある程度人間らしい生活は出来ていると言える。長引く籠城生活において寝具が揃っている点は有難く、また寝具の配置を工夫することで男女のプライベートスペースを分ける事も出来ていた。それをするだけの空間的余裕は十分にある。

 

 祷と明瀬を案内しながら、弘人はそんな説明をする。明瀬の方は気楽な風の感嘆詞を口にして周囲を興味深く見て回っていたが、それに反して祷の方は緊張感を漂わせていた。バリケードで封鎖した非常口とエスカレーターの位置をしきりに気にしている様に見える。彼女の視線が、隙あらば自分に向けられているのも弘人は感じていた。

 明瀬の方は、その喋り方や表情の造り方からして、人懐っこさと人好きのする感じが伝わってくる。今までグループの中にいなかったタイプの人柄であった。対して祷の方は、どちらかというと大人しい印象を受ける。口数も少なく落ち着いた物言いをする辺りに、冷静な性格を感じさせた。だが、何気ない仕草や距離感で、祷の方が手を引くような関係性に見えた。

 

 友達だと言うこの二人は、今まで家に隠れて生活してきたと言った。食料を探して外に出る事はあったらしいが、生存者には一人も会わなかったとの事だった。全体の説明を終えて、弘人は言う。


「これで2階は全部だが、1階は駄目だ。ゾンビが居る」

「今も、という意味で?」

「今も生きている状態で、だ」


 祷が、少し表情を変えた。綺麗に眉をひそめる。


「どういう事でしょうか」

「前はもっと人が居たんだ。最初から2階を生活拠点に決めて、必要な食料品なんかは1階から全て上げてた」


 あの日、弘人達がラジオによる通信を聞いた後。車を飛ばして弘人達はホームセンターに辿り着いた。駐車場の崩壊具合はその当時からであったが、それが功を奏してホームセンターでの籠城が可能になっていた。弘人達を迎えたのは数十人単位の避難民であり、彼等はパンデミック当日からホームセンターに集まっていた。

 ホームセンターの裏口は封鎖し、正面入り口にはバリケードを立てた。弘人達は彼等に協力し、拠点の増強を行ってきた。2階部分を生活拠点の中心として、1階から食料品等を運び込んでいった。

 当初の見通しでは数日で事態は改善すると大多数の人間は思っていた。しかし一週間経っても救助の目は見えず、弘人達生存者は本格的な籠城を余儀なくされた。とはいえ、ホームセンターでの籠城はある程度上手く運用出来ており、多少の不自由さはありながらも上手くやってはいけていた。

 あの日までは。


「一月前、裏口のバリケードが壊されてゾンビの侵入を許したんだ」


 タイミング悪く、香苗と梨絵を除いたほぼ全員が1階での作業を行っている時であった。そして、事態の悪化に更に拍車をかけたのは、其処に現れたゾンビが、かつて弘人達が目撃した事のある破裂するタイプのゾンビであるという事であった。1階フロアでゾンビが破裂したことで周囲に血液が飛び散り、それによって多くの生存者が一気にゾンビ化した。

 弘人と鷹橋、そして桜は何とかその場を逃れる事が出来たものの、数十人が犠牲となった。通路は全て封鎖することができたものの、1階フロアに多くのゾンビを残したままとなっていた。


「俺達は運が良かった。それだけだ。誰も助けることが出来なかった」

「……それは、私達も同じです」

「だから、誰かが困っているならそれを助けたい。君達の事、歓迎するよ。肩身の狭い思いをすることはない」


 弘人の言葉に対して祷は、あまり芳しい反応を見せなかった。祷は1階フロアにゾンビが存在し続けているのかどうかを問いかけてくる。質問の意図が不明であったが、1階フロアからは定期的に彼等の物音と呻き声が聞こえている、と弘人は答えた。


「定期的に物音はするから、1階に今もゾンビがいるのは間違いない」

「夜間だけでなく、昼間もですか?」

「いつもいるように思えるが」

「すると1カ月間、ゾンビは1階フロアに留まっているわけですよね。ゾンビの、群れを作る習性からして、1階フロアには一つの群れが形成されていると思います」

「それが何か」

「基本的に、ゾンビは群れによる移動をしています。ゾンビが今も1階フロアにいるのならば、1階にいる群れは移動をせず定着することを考えたのでしょう。野生動物の縄張りの様に」


 祷の言葉が、何を言いたいのか弘人にはイマイチ理解が出来なかった。しかし、明瀬の方は何か思い付いた様だった。合点がいったようにその手を叩いて、明瀬は祷に言う。


「エサがない」

「うん。この群れ化したゾンビが、ホームセンター1階フロアに留まり続けているなら食べる物が無い。人の出入りはないし、ゾンビが外に出てもいない。1ヶ月間彼等は何も食べないで生存し続けている」


 祷の言葉に明瀬が何か、考え込んでいる素振りを見せた。

 確かに、と弘人は祷の言葉に頷く。ゾンビが人間以外に反応を示すことはない。ゾンビが捕食するのは人間のみであり、それ以外を食物としている所は見た所が無かった。ゾンビ同士が共食いをしているを様子もない。

 祷が、誰に聞くわけでもなく呟くように言った。


「ゾンビは、どういう仕組みで生きているんだろ」


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