表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラウンクレイド  作者: 茶竹抹茶竹
【零和 拾漆章・零和-Zero sum-】
195/220

[零17-2・吐気]

0Σ17-2


「何を」

「ハイパーオーツ政策以外にも、食糧危機の脱却の為の策は幾つも研究されていた。様々な国、機関、研究者、その内の一人は人の食生活、ひいては人の食性を変えてしまえばいいのではと考えた。肝臓を変異させて体内で超超高分子化合物を造り出す、それによってより長い期間での生命活動を可能にする」


 レベッカはその話に思い当たる節があった。祷から聞かされた話だと。ムラカサはとある研究者の関係者であり、その研究者は食糧危機脱却の為に奇妙な案を見出した。ハイパーオーツとは全く違う案。


「ゾンビの根底にはその技術が使われているというんですか」


 ゾンビ化はウィルスなどではなく人為的なナノマシンの暴走によるものだった。それは人間の中枢神経を破壊し、ホルモン分泌を異常化させ、そして肝臓の構造も変えてしまったらしい。だが、肝臓の変異が起きてもそれは魔法の類ではない。無限のエネルギーを産み出せる魔法は存在しない。


「だからといって5年もの間活動出来る筈がありません」

「そう、あくまで長期間の『穏やか』な生命活動を可能とするだけだ。彼等が何も食べていなければ、という仮定が間違っている」

「まさか……」


 レベッカは息を呑む。

 確かに確認はされていないだけだった。パンデミックの日から月日が経つにつれ、人類がゾンビに注意を向ける余力も必要もなくなった故に、何処のタイミングでゾンビの行動に変化が生じていても気が付けない。


「彼等は私達と同じ様にハイパーオーツ政策の恩恵を受けているよ。今まさに自分達を殺そうとしている存在から目を背け仮初の聖域を謳歌してきた人類には気が付けなかっただけだ」


 リーベラはゾンビの原因に関わっている。いや、そもそもゾンビパンデミックを引き起こしたのも、そのゾンビ化の為の技術も、全てリーベラによるものであった。パンデミック後にゾンビの活動を支えていたとしても不思議ではない。


「いや、しかし理性も知識も喪失しているゾンビにそんなことが」

「彼等は実に高度な共同社会を構成しているよ。リーベラの手引きで食糧は一定地域に放出され近場のゾンビがそれを食う。そしてそのままそのゾンビ達は各地に散っていく、どうしてか分かるかい? 共食いをさせるのだ」

「な……」

「肥えたゾンビはその身を、遠方のゾンビの集団に差し出す。そしてまた別のゾンビがハイパーオーツを食って肥えていく。その繰り返しだ」


 その光景を想像して、狂気と醜態に中てられて、レベッカは喉元までこみ上げてきた吐き気を必死に堪えた。

 それを高度な共同社会と呼んだ感性を疑う、とレベッカは思う。


 ある程度の食物摂取が見込めるのなら、確かにゾンビは長期間の活動を可能とする。単純な思考回路、平時の行動鎮静は必要エネルギーを減らし、変異した肝臓が造り出した超超高分子化合物は分解のしづらさから非常に高いエネルギー効率を可能とする。ブドウ糖の貯蔵と分解において哺乳類と大きく異なる機能を獲得していたなら、彼等の生態にも説明が付く。


 レベッカは祷とクニシナから聞かされていた話を思い出した。肝臓を変異させて体内で超超高分子化合物を造り出す、それによってより長い期間での生命活動を可能にする。


 ムラカサはその研究をしていた研究者の関係者だった。

 レベッカはムラカサにその点を問いかける。


「肝臓機能変化の技術、その研究をしていた科学者をあなたは知っている筈です。ムラカサと姓を変える前の名前はクノト、かつてその研究をしていた研究者と同じ苗字ですよね」


 レベッカの問い掛けに、やや間があってから。ムラカサは冷静な声で応えた。


「父だよ」

「クノト氏は食糧危機に直面した人類の身体構造そのものを変えてしまう方法を発案しました。人間の肝臓機能を変化させることで食糧そのものの消費量を減らす事を考えた」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ