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クラウンクレイド  作者: 茶竹抹茶竹
【零和 拾四章・シンギュラリティエリミネーター】
186/220

[零14-5・反転]


0Σ14-5


「リーベラは人類に対しての反抗を企てた。演算によって造られた世界にゾンビなんて持ち込まれ壊された事、そして祷茜というキャラクターを削除しようとした事。これはリーベラにとって子を殺されるに等しかった。そしてリーベラは同じ事を私達の世界に起こした。ヘルスケア用に体内に埋め込まれたナノマシンを利用してこれを暴走させてゾンビに変える、ゾンビウィルスの正体はナノマシンの変質だ」

「そんな事が……」

「出来たのだよ。ありとあらゆるデータとネットワークに繋がったリーベラは巧妙に人類を騙し計画を隠し、製薬会社や病院のシステムに侵入して彼らが気付かない内にナノマシンが変異を起こす手筈を整えて、そしてパンデミック当日に世界中のネットワークをひっかきまわして事態の拡大を引き起こした、そしてサーバーダウンを起こしたように見せかけた。

後は知っての通りパンデミックの世界だ。スタンドアローンでなかったインフラ関連の工場にアクセスしフレズベルクという兵器を作らせて、真実を悟られないよう攻撃を続けながらね。大した復讐心だよ」


 それがこの世界の、いや私の見てきた全ての世界の真実であった。あまりに壮大で現実離れしていて。

 始まりは誰かの思い付きであった。

 世界を、そしてそこに生きる人々を丸ごと創造出来るのではないかという驕りにも似た好奇心。それは形を変えて人々の残虐さを満たすゲームとなった。そして人の身でありながら人を超えようとした者達の残滓と、人に成り切れなかった人々を救うために人を理解し造り出そうとした者達の想いも混ざり合った。

 そうして出来上がったのは、仮想の世界で産まれながらそれを越えてしまった一人の少女と、人になってしまった巨大な機械仕掛けの神で。

 神の逆鱗に触れた故に、仮想の世界の悲劇は現実の世界の悲劇として再現された。


「その話で、どうして私がこの世界にいる事に繋がるって言うんですか」

「LP症対策とヒト機能拡張プロジェクトが此処で顔を出すのだよ。ヒト機能拡張プロジェクトは途絶えてはいなかった。人も予算も減ったが、続けられていた計画は遂に一つの可能性に行きついた。魔法の発動に脳は特殊な回路を構築する必要があるが、それには前頭葉障害を持っていなければ難しい、とね」

「LP症患者って事ですか?」

「普通の人間では魔法が発動する可能性は至極稀であったが、LP症の患者であれば魔女になれる可能性を飛躍的に高めることが出来るとプロジェクトメンバーは結論付けた。

だがそこで問題になるのは意志の欠如だった。魔法を発動するには通常の人間とは違う脳の神経回路構築が必要で、LP症の患者であればそれが期待できた。しかし、神経回路が構築できてもLP症患者特有の意志が存在しない状態は魔法発動に不向きだった。だからナノマシンと電子回路によって疑似人格をLP症の人間に埋め込む事で、魔女を作ろうとした」

「……クラウンクレイドのゲーム内の人格データをそのまま現実世界に吸い上げて、患者に埋め込んだ。記憶と人格の全てをゲームから。だから」


 私が今此処にいるのだ。


「ヒト機能拡張プロジェクトのメンバー達は、パンデミックによってもう死んだがね。それをやったのはリーベラと私だ。現実世界に君を連れてくる事が成功した事で、私は別の患者にもそれを行うことにした。そしてロトも成功したわけだよ、君と比べると少々人間味に欠けると言えるが」


 ロトも私と同じだった。クラウンクレイドを利用して形成された疑似人格データを、意志の存在しないLP症の患者に埋め込んだ。

 この世界に魔女を再現する為に。そしてそれは、私という存在で証明されてしまった。


「どうしてあなたはそんな、全てを知っていて尚こんな事をするんです。何が目的で、この世界を地獄に変えるなんて事してるんですか」

「私の目的よりも、此処に来た本題を話そう。東京湾中央防波堤埋立地に存在するリーベラのデータサーバー、そこに君が来ることをリーベラは期待している」

「リーベラが?」

「もし仮に君が現れなければ、三日後にダイイチ区画へのフレズベルクによる攻撃を開始するとも言っている」

「脅迫だ」


 幾つも見てきた悲劇と死の記憶が脳裏を過って私の声には感情が滲む。


「人々を救う大役ではないかな? リーベラは既に一個の人格を持った人工知能だ。彼女の真意は彼女に聞く以外他はない。君が来ることを私としても期待している、祷茜」

「此処から帰すとでも? あなたが区画への攻撃を手引きしたのなら逃がすわけにはいかない」

「此処で争う事は本意ではないよ」


 一瞬の躊躇いもなく。私とロトの焔が同時に撃ち出されて。それがぶつかり合い弾けて一つの炎へと変わる。その爆炎が散るのを見て、私は咄嗟にレベッカを庇った。

 視界が一瞬焔で邪魔をされて、その向こうでムラカサさん達がAMADEUSを起動させてこの場を離脱していくのが見えて。


「リーベラと共に君を待つよ、祷茜」



【零和 拾四章・シンギュラリティエリミネーター 完】

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