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クラウンクレイド  作者: 茶竹抹茶竹
【零和 拾四章・シンギュラリティエリミネーター】
183/220

[零14-2・解析]

0Σ14-2



 彼女が使って見せた魔法に私は驚愕する。この世界に魔法は無いと誰もが語り、その神話を私が壊した。そして今、同じ物を目の前にしている。


「君が今読んでいたヒト機能拡張プロジェクトのレポートを見てどう思ったかな。それは人の身でありながら人を超えようとした愚か者達の軌跡なのだよ。彼らは人の身であるままに奇跡を、言葉を変えるなら魔法というものを目指した」

「あなたは何を知っているんですか、一体何を目的にして……」

「ゾンビによるパンデミックも、未だ応え続けないリーベラも、此処にいる祷茜という存在も、魔女となったロトも、全てはクラウンクレイドに繋がる。君が此処に来たと言う事は何かの真実を掴んだのだろう?」


 それは只のゲームのタイトルでしかない筈だった。私の言葉を彼女は切り捨てる。そう括るには、あまりにも業の深い代物なのだと。


「クラウンクレイドというゲームにはヒト機能拡張プロジェクトのシミュレーションという要素が含まれていた」

「シミュレーション?」

「始まりはリーベラの演算能力と集積したデータ解析を用いての疑似的な仮想世界の構築だった。

何を思ってそんな事をしだしたか知らないが、『出来る』という理由だけで往々にして人は創り始めるものだよ。仮想世界は2000年当初の環境の再現を目指した。リーベラの関わる巨大なプロジェクトの一つだった」


 リーベラが世界中のネットワークと繋がり大量のデータが集約される中、誰かがそれを始めた。リーベラの演算能力とデータの蓄積があれば、地球規模の天候や環境シミュレーターだけでなく、そこに住まう数十億人の行動をシミュレート出来るのではないか、という発想だった。

 私は思う。2000年という時代には意味があったのではないだろうか、と。食糧危機によって世界が破綻する世紀の始まりの年だ。


「ヒト機能拡張プロジェクトはこの仮想世界に目を付けた。理論のシミュレーターとしてだ。

プロジェクトメンバー達は人が魔法を使う為の理論自体は組み立てたものの、被験者が魔法を使えるようになる確率はあまりにも低かった。その原因が被験者の数が足りなすぎることだと考えた彼等は、ネットワーク上の仮想世界においてシミュレーションを行う事を考えた。だが当時、この仮想世界に関する別のプロジェクトが動いていた」

「それがクラウンクレイドですか」

「そうだ。リーベラに関わる組織の上層部が交代した事で、仮想世界の構築プロジェクトに難色を示した。特に採算性があるわけでもなかったようだからね。だから計画の一つとして、ユーザーにその仮想世界を体感してもらうプロジェクトが持ち上がった」


 五感に関する神経に電気信号刺激を与え実際に映像内にダイブしてるかと錯覚させる「Full Immersion Virtual Reality」技術とそのマシンが実用化した頃であった為、先人達はそれに目を付けた。


「それは当初もっと平和的なものであったようだが、世間は過激な物を求めた。食糧危機を乗り越え過去に例を見ない程に平和で満たされた時代だったからね。かつて世界中で行われた創作物の暴力表現規制が解禁された反動があったのも大きかった。

前時代のコンテンツを元にした『ゾンビ』という表現がウケると踏んだ彼等は、大人数のプレイヤーが同時に参加するゾンビパンデミックゲームの作成に踏み切った」

「あまりにマニアックな要素であるように思うんですが」

「違うんだよ、祷君。食糧とインフラを完備した世界はあまりにも平和で満たされ過ぎていたんだ。食糧危機前後の世界危機はとうに過ぎて、暴力が身近にあった世界から清潔な世界に変わった。行き過ぎたものは何でも反動を生む。

仮想世界において行われるサバイバルゲームの話は大きくなり、最終的にそれにヒト機能拡張プロジェクトは呑み込まれた。シミュレーターとしての側面は殆ど形だけで、ゲーム内には超常的な力を持つ人間、シンギュラリティが登場するというコンセプトに変わってしまった」


 それが、クラウンクレイドというゲームにおける魔女だった。シンギュラリティと呼ばれる特殊な能力を持ったNPC。

 シンギュラリティは仲間に引き入れることでプレイヤーを助けるNPCとして設計されている。特殊な能力、感染耐性を持っており仲間に引き入れることで有利になれる。ゲーム内では世界観に合わせて魔女と呼ばれていた、私がそうであったように。


「2019年の世界を舞台にしたゾンビパンデミック生存ゲーム。これは非常にウケた。FIVRの没入感もあったが、リーベラの演算能力を持ってして構築された仮想世界の住人達が、その何れがプレイヤーの存在しないNPCであるか見分けが付かない程リアルであるというのも大きかった。何をしてもいい自由度もある。

世界中でヒットし、プレイヤー達はその世界の住人であるかのようにゾンビゲームを楽しんだ。ワクチン完成を目指して世界を救おうとする者、死と隣り合わせながら何にも縛られない自由な生活を謳歌する者。わざと感染して人々を襲う者もいた。プレイヤーキャラが感染した場合のみアダプターと呼ばれる強化ゾンビになるというシステムがあったからね」

「……アダプターが……」


 アダプター-適合者-と呼び名を付けられたゾンビのその正体は誰かがプレイしているキャラクターだった。私の生きてきた世界とは違う、恵まれた世界の誰かの手によって操作されたキャラクター。


 私達が観測したゾンビは特徴によって四種類に区別できた。だがそれはゲームの敵という役割を与えられた故にその要素が付随された。私達が相対し苦戦を強いられてきたアダプターがクラウンクレイドというゲームをプレイしていたプレイヤー達によるものであったと。そして私達は純粋な遊びによってその命を弄ばれてきたと。


 私の見てきた世界はゲームで、出会った人達の何れかは、操作されていたゲームキャラだった。彼らは私達が死ぬ様をただのゲームとして楽しんでいた。


「もっともNPCである君の様な存在は、それがゲームであると知覚しようもないがね。クラウンクレイドというゲームはリーベラの持つ巨大な演算能力で構築されている。その仮想世界に住む人々は何らかの行動を指示されているわけではない。疑似人格を与えられ、その性格や環境によって思考しそれぞれのNPCは勝手に動く。全世界の数十億人がゾンビパンデミックに直面したらどう動くか、という良く出来たシミュレーターであるとも言える」

「ちょっと待ってください」


 レベッカが口を開く。


「そのクラウンクレイドというゲームが魔法の存在するゾンビゲームだったとして、この場にいる祷さんはどういうことなんですか」

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