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クラウンクレイド  作者: 茶竹抹茶竹
【零和 十章・そしていつかの夜天を重ねる】
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[零10-1・再会]

【零和 十章・そしていつかの夜天を重ねる】


0Σ10-1


 ダイニ区画もまた今までの区画と同様の構造をしていた。超高層ビルが密集して成り立っていて、その一画にあるヘリポートに着陸する。ウンジョウさんとムラカサさんが件のゼイリさんの元にフレズベルクの残骸を運ぶ事になる。

 ダイニ区画にはドウカケ先生という医者がいるらしく、ウンジョウさんはレベッカに私をそのドウカケ先生の元に連れていくように指示した。フレズベルクの一件から外される事に少し不服であったが、私は素直に従う。


「ドウカケ先生は精神科の権威です。パンデミック以前は国家関連機関に勤めておられていたそうですが」

「成程ね」

「……その」

「いや、正直にそう言ってくれた方がすっきりする」


 まぁつまり、過去の世界からやってきたと語る少女の精神面の治療をしようというわけである。私が逆の立場ならそうするだろう。

 ビルの空中廊下を渡りドウカケ先生のいるエリアへ向かう。医療室があるのは他の区画と同じではあるが、高度な精神ケアの出来る医者はダイニ区画のドウカケ先生だけであると言う。

 私達が彼の元に行くと、件のドウカケ先生とやらは何か揉めているようだった。

 ドウカケ先生は35歳の男性で非常に若々しい見た目をしていた。そんな彼と揉めているのがサキガタさんという私と年の変わらない位の少女である。レベッカ曰くドウカケ先生の助手であるらしい。口論は熱が段々と熱が入り、私達の入室を認めながらも留まる事は無い。


「回復の見込みもない患者を生かしておく意味あんのかよ! 資源だって有限なんだろ!?」

「サキガタ君、それは医療の否定になるよ。何処までが人間であるかの定義を此処で決めるのかい」


 彼の言葉にサキガタさんは苦々しく床を蹴って部屋を出ていき、話は終わったようだった。

 彼は私の顔を見て姿勢を正す。


「見苦しい所を見せてしまったね、申し訳ない」

「中々興味深い議論でした」


 私の返しに彼は肩をすくめてみせた。椅子を勧められて腰掛ける。サキガタさんを気にしてかレベッカは部屋を出ていった。


「先天的前頭前皮質高度欠損障害、通称LP症は知っているかい?」

「LP?」

「congenital Lost Personality。簡単に言うと先天的に人格を有していない病の事だ」

「初耳です」

「程度によって違うが、簡単に言うと感情や思考、人格と呼ばれるものが先天的に非常に虚弱な人がいる。それがLP症だよ。私の所にも重度のLP症の患者がいてね」


 サキガタさんと揉めていたのはその患者の扱いらしい。脳機能は生きおり、身体機能も何の問題もない。だがLP症の人間は意志が存在しないという。

 それを生きている人間と認めるかどうか、という話だ。と彼は言う。その病症について私は全く知らなかったのでイマイチ理解出来ず、曖昧に頷いた。分かったのはサキガタさんとドウカケ先生の立場が違うと言うことくらいだ。


「それで君は?」

「祷と言います」


 彼は幾つかの質問を挟みながらも、基本的には私の話をじっくりと聞いた。私の奇妙な身の上と呼ぶべきか、それとも高度に構築された妄想と呼ぶべきか。

 私は端的に話を終えようとしたが、彼は私の見てきたパンデミックについて詳細を聞きたがった。悩んだが魔法の事も含めて事細かに語る。気が付けば一時間以上、私は今までの話を語っていた。彼は私の話を聞き終えて何度も頷いた。


「なるほど。君の記憶には矛盾や欠落した部分が存在していない。非常に高度な記憶だ」

「この世界にタイムスリップの技術もあれば良かったんですけど」

「君の話を聞けばそう思いたくもなるよ」


 そう言いながらも彼は私の話を否定しなかった。これも一種のカウンセリングをされているのだろうかと思う。今後、私のパンデミックとゾンビと魔法の記憶が虚像であったと納得するまで心のケアとやらが続くとでもいう事であろうか。


「先生も、私の記憶が虚像であると思いますか?」

「……結論は急ぐべきものではないよ」


 言葉を濁されてはぐらかされた気がした。彼はレベッカと話をする必要があると言って、会話を締められる。少しばかり不服に思う中、前触れもなく部屋に入ってくる人物があった。レベッカでも、出ていったサキガタさんでもなく見知らぬ少女だった。

 彼女は所々黒の混じった暗い茶の髪色をしたミディアムヘアーで、年齢はその幼い顔立ちと背の低さから私より少し下くらいに見える。彼女は私の姿を認め、そしてドウカケ先生の方を見た。


「ロト、丁度いい。レベッカを呼んできてくれないか」

「分かりました」


 その声はとても冷たく聞こえた。事務的というよりも機械的というべきな程。

 彼女は私の方へじっと視線を向けてきていた。その瞳と視線が交差しても彼女はたじろぐことも無く。


「私はロト、あなたは?」

「祷、祷茜」

「……祷……?」


 彼女は私の方へと歩み寄ってきて。そうして突然私の顔を両手で挟み込んでくる。顔を固定されて瞳の奥まで覗き込まれるように顔を近付けられる。突然の事に身動きが出来なくて。彼女のその唇の造形だとか透き通るような鼻筋だとかに注目してしまう。


「あなたとは以前に会った覚えがある」


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