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クラウンクレイド  作者: 茶竹抹茶竹
【零和 九章・暗躍するは影か生者か】
159/220

[零9-2・体内]


0Σ9-2


 話が終わって、私とムラカサさんは部屋を出てレベッカの所へ向かった。彼女は丁度医務室を出てくるところであった。救出した少女の容態は安定し怪我も無いらしい。ダイニ区画に向かう事になったと伝える。フレズベルクが人工物であった以上、その出所を調べる必要がある、と。

 レベッカはその感情を大きく揺らす。


「こんな、こんなのおかしいじゃないですか!」


 そう泣くレベッカに、私は何も言えなくて。


「みんな死んじゃって、みんな、みんな死んだんですよ!?」


 長い夢を見ている様な気分だった。目が覚めたら2080年に飛ばされていて、そこでは世界はゾンビに埋め尽くされて、それから逃れるために人々はビルの上で生活をしていて。其処に怪鳥がゾンビを連れてやってきて大量の人が死んで、でも本当はそれは誰かのせいかもしれなくて。

 私は確かに動揺していた。けれどもあまりにも受け入れがたい事が多すぎて俯瞰で世界を見ている様な妙な冷静さが自分の中にあった。

 この世界で私は何と戦えば良い。何をもって、何のために戦えばいいのだろうか。守るべきものはなく、戦う為の力もなく。

 ムラカサさんが話を変える為か、それとも場の空気を読めないのか全く違う話題を口にする。


「レベッカの直感とやらの話を思い出したんだけど、それは近くに人間がいた場合に感応するというものよね?」

「……はい」


 涙を拭いながらレベッカは怪訝そうな表情でムラカサさんを見返す。


「フレスベルクには反応したことある?」

「いえ……ないです」

「生物には? 例えば鳥や犬、ネズミなんかでもいいわ」


 レベッカが首を横に振る。彼女の直感とやらは、現に私を発見し幼い少女を今回は助けた。ゾンビと生きている人間の区別がつき、なおかつ一定の距離以内なら視認しなくても人間の存在を感じられるというものらしい。直感と呼ぶには少し正確すぎる。私は彼女のその直感を「魔法」ではないかと思ったが、私自身が魔法を使えなくなっている現状、それを説明できる術がなかった。

 ムラカサさんは勿論魔法なんて仮説を立てるわけもなく。


「仮説なんだけれど体内のナノマシンが発している、極微量の電気信号に反応してるのかも。普通の人間には勿論無理な芸当だけどね?」

「ナノマシン?」


 体内のナノマシンとは、どういう意味だろうか。私が疑問に思って問い返すと、横でレベッカが息を呑んだ。レベッカが会話を遮ろうとしたが、ムラカサさんがその前に何気なく言う。


「あなたにも入ってるじゃない?」


 何気なく、さも当たり前であるかのように。私は純粋に首を傾げた。


「ハイパーオーツ政策と前後して行われたナノマシン投与よ。幼少期に予防接種と共に受けてる筈よ」


 この時代の人間は、医療目的を始めとした様々な理由から体内にナノマシンを埋め込まれているらしい。この時代の常識らしいが私は勿論初耳で、上手く反応できなかった。それを見てかムラカサさんがレベッカに向けて首を傾ける。


「あー、レベッカ。どういうこと? 彼女にもナノマシンは当然……」

「血液検査の結果でナノマシンは確認されています。事実、AMADEUS使用中やハイパービルディング内での超高層でも不調を訴えていません」


 その説明に私はとある可能性に気が付く。いやレベッカもそれに気が付いていて恐らく私に黙っていたに違いなかった。

 この時代の人間は体内にマイクロマシンを投与している。

 ハイパーオーツ政策によって人を天空に上げることになった時、血液中の有酸素量が問題となった。突然高度2000メートルの世界に移住させれば、人体は簡単には適応出来ない。故に、当時予防医療目的で投与されていたマイクロマシンが予防接種と共にすべての国民に投与されることになった。それは高高度下で人体にかかる負荷を軽減する働きを持っている。

 この環境適応用マイクロマシンは性質上幼少期にのみ定着する。幼年期の予防接種と共に投与されるわけだ。


「ナノマシンは間違いなく、あたし達と同じ世代のものでした」


 それはつまり。

 レベッカが躊躇った言葉を私は先回りする。


「私は間違いなく……この時代の人間ってこと」


 レベッカは曖昧に頷いた。

 別に私が本当に60年もの時間をタイムスリップしてきたと信じてきた訳ではなかったが、何を信じれば良いのか分からなくなってしまったのは事実だ。私がこの時代の人間であるという証拠が生まれた以上、私の記憶は少なくとも真実とは呼び難い。

 私の記憶に決着がつくのならそれは喜ばしい事なのだろうか。あの日々が、もし全て嘘だと言われてしまったなら、私は救われるというのか。

 それとも今から60年前から、私は時を越えてやってきたと叫び続けた方が良いのか。狂人と思われようとも、その方がきっと私の心は狂ってしまわないのだろうか。


「じゃあ、私は誰なんだ」



【零和 九章・暗躍するは影か生者か 完】

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