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クラウンクレイド  作者: 茶竹抹茶竹
【零和 六章・かがり火が消えた後】
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[零6-6・学者]

0Σ6-6


 私に退がるように、とレベッカの怒声が響く。それと同時に銃声が空気を振動させる。瞬きの間に目の前のゾンビの頭部が破裂した。叩き込まれた散弾が、ゾンビの頭部を血と肉を挽き合わせた塊に変える。首から先が消えて溢れ出した血が地面に落ちると同時にその身体も地面に臥せた。それは自身の頭部だったものを下敷きにしていく。

 隣のビルから跳び移ってくるゾンビは途絶えず、私達の進退は阻まれる。雪崩れ込んでくるゾンビの方を向いて銃弾を撃ち込みながらウンジョウさんは徐々に後退ってくる。私達は一気に屋上の隅に追い込まれていた。

 周囲を確認し別のビルをレベッカが指さした。そこへワイヤーを撃ち込もうとした瞬間、そのビルの屋上からゾンビが跳び込んでくるのが見えた。ビルとビルの間の距離は広くその狭間へゾンビが落下して。地面に叩き付けられ、ひしゃげた死体に変わっていくのも気にせず、ゾンビは何体もビルから跳び移ろうとしてくる。それは後続の彼等に押し出されているようでもあって。つまるところ、逃げ場はないという事だった。


「そっちも駄目か!」


 ウンジョウさんの怒声。私は引き金を引く。押し寄せるゾンビの群れの中に的を外しても尚、弾丸は雪崩れ込んでいきその幾つかの肉体にめり込む。鋭く穴を開けて紅い血の欠片を撒き散らして、横転したゾンビが一瞬で後続の群れに呑み込まれて踏みつけられて姿を消す。そこへレベッカのぶっ放した散弾がゾンビの半身を吹き飛ばす。

 だがそれも、大量のゾンビを前に気勢を削ぐ事すら出来ず。迫りくる壁の様にそれは私達を押し潰さんと迫りくる。

 追い込まれた状況下、それはまるで嵐のように現れて。

 何処からか放物線を描いて放り込まれた物体がゾンビの群れの中に落ちて。突如それが爆発した。爆炎が上がりゾンビの身体が吹き飛ぶ。熱風がゾンビの身体を薙ぎ払い押し倒す。そして再び爆炎が空へと延びた。ゾンビの群れの中で爆炎と爆発が吹き荒び、それが焦げた死体へと変わって宙を舞う。熱風に薙ぎ倒されて私達の元へ転がってきたゾンビをレベッカがぶち抜いた。

 レベッカが驚いた声を上げる。


「グレネードランチャー!?」

「こっちへ!」


 向かい側のビルからその大声はして。それと共に再度爆炎が上がる。勢いの削がれたゾンビの群れの中をウンジョウさんを先頭に駆け抜ける。私の元へ飛び込んでくるゾンビに向けて引き金を引くも、それは外れて。息を呑んだ瞬間にレべッカが私の前に踊り出し、ゾンビの上半身を手早くショットガンでぶち抜いて。


「飛んで!」


 ゾンビの腕をかいくぐり向かい側のビルへ向けてアンカーを撃ち込んで地面を蹴った。空中へ飛び出した私達を目掛けて、屋上から躊躇いもなく飛び出したその無数の群れは、重力に引かれてあっという間に落ちていく。その事を躊躇いも想像もしなかったように、それらは勢いよく空中へと飛び込んではその感情のない表情のまま落下していって。その呻き声はいつもと変わらず、悲鳴の様には聞こえなかった。

 私達を襲うというただ一つの行動原理で、その身を死に晒す結末すら想像せず散っていく彼等の姿に私は恐怖や嫌悪を通り越して憐憫の情に近い物を抱きつつあった。AMADEUSに背を押されて隣のビルに着地する。

 ゾンビで飽和した屋上から離脱した私達を迎えたのは一人の女性だった。

 私達と同じ格好をしていて、背にはAMADEUSを背負っている。その手には大型の銃を抱えていた。


「ムラカサか、助かった」


 ウンジョウさんからムラカサ、と呼ばれたその女性はおそらく20代前半位の女性で綺麗なウェーブのかかった髪が印象的で。この狂った背景に似合わない、華やかな美人といった趣であった。死と隣り合わせの戦場ではなく、まるでパーティにでも来たかのように。

 彼女は重たそうに抱えていたそのグレネードランチャーを気だるげに地面に置いて、その手で前髪を除ける。彼女の他に人影はなく、一人で行動していたようだ。

 私の顔を見て彼女は目を丸くする。


「新人増えたの? 珍しいわね」

「祷です」

「ムラカサよ、宜しくね」


 握手の為に手を差し出されて、私がそれに応えると強く手を握り返される。


「助かりました」

「偶然近くにいて良かったわ」


 ムラカサさんはゾンビで溢れかえった対岸のビルを眺めてそう言った。残りの弾薬を確認しながらウンジョウさんに問い掛ける。


「ダイイチに向かってるんでしょ? 手伝うけど?」

「あぁ。助かる。ダイサンにゾンビの侵入を許した。救援を呼びに行くところだ」

「それはマズイわね。それに興味深いわ」


 興味深いと奇妙な言葉を述べた彼女を、ウンジョウさんは私に紹介する。


「祷、ムラカサは何処かの区画に所属しているハウンドではない。わざわざ下層に出向いてゾンビを研究しているイカレ野郎だ」

「フィールドワーカーって言って」


 ムラカサさんが口元を歪めて笑って。足元に置いたグレネードランチャーを足で小突きながら彼女は続ける。


「珍しいゾンビを見付けたら、教えてね」


【零和 六章・かがり火が消えた後 完】

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