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クラウンクレイド  作者: 茶竹抹茶竹
【零和 五章・今、雪崩の如く】
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[零5-2・防衛]

 上空に出現したフレズベルク二羽が投下した二つの物体、その正体は二体のゾンビだった。

 ゾンビは空中から、しかし地面に叩き付けられない程度の高度から投下された。

 それは問題なく地面に降り立ち素早く立ち上がると、私達の居る方向とは逆方向に勢いよく駆けだす。

 フレズベルクがゾンビを此処までキャリーしてきた意味が解らなかった。

 そもそもにして、フレズベルクが私達を以前襲ったのは縄張り内に侵入したからだ。

 そうでなければ、攻撃して落下した人間の遺体には目もくれなかった理由が分からない。

 捕食目的なら、遺体を奪ったゾンビの集団と一悶着起こしても良い筈だからだ。

 そして何よりも、フレズベルクがゾンビをこの高度まで運んでくる理由は何だ。

 一瞬、頭を過ったのは、鳥類が捉えた獲物を殺す為に地面に叩き付ける映像だった。

 だが、そうだとしても失敗しているし、そもそもゾンビを食べると言うのか。

 鋭く轟いたのは乾いた炸裂音。

 この吹き荒ぶ風の中でも、それを押し退けるようにして衝撃波が爆ぜる。

 ウンジョウさんが伏せた射撃姿勢のまま射撃を放った。

 銃身に装着された二脚によって対物ライフルは地面に固定されていたものの、発射の反動によって後退した。

 放たれたのは一発の弾丸。

 しかし、今まで目の当たりにしてきた銃声とは比べ物にならない程の衝撃だった。

 ウンジョウさんの放った一撃によって、疾走していた一体のゾンビの身体が肉片へと変わって空中に吹き飛ぶ。

 撃ち抜かれた胴体は一瞬で残骸に変わり、まるで爆ぜたかのように跡形もなくなっていた。

「もう一体……!」

 ウンジョウさんがライフルのチャージングハンドルを引く。

 次の弾丸を装填する。

 ビル屋上の端から端までの長距離間を、一瞬で照準を定めて彼は引き金を引いた。

 再び轟いた銃声、しかし。ゾンビが突然空中に跳び上がる。

 空中で身体を捻りながら、しかし素早く地面に着地する。

 私はその光景に呆然と呟く。

「躱した……?」

「おい! 何故搬入口が封鎖されていない!」

 ウンジョウさんが怒鳴った相手はヘッドセッドにだった。

 驚いて確認すると確かにゾンビが走り向かっている南側搬入口が開いていた。

 確かに封鎖していた筈だ。

 このままでは建物内部に侵入される。

 ウンジョウさんが次弾を装填する為にハンドルを引く。

 金属の噛み合う音が鳴るも、それを上塗りしたのはヘッドセッドから聞こえてきた叫び声だった。

『防護扉のコントロールが制御不能! 各セクションが封鎖出来ません!』

「馬鹿な! さっきまでは封鎖した筈だ!」

『原因不明!』

「ウンジョウさん!」

 上空を過ったのは黒い影。

 フレズベルクが急降下してきていた。咄嗟に私達はその場を跳び退く。

 ウンジョウさんが地面を転がると、その場所を鋭い鉤爪が引っ掻く。

 咄嗟にゾンビの姿を確認すると、それは搬入口の中へ消えていった。

 ウンジョウさんが対物ライフルをかなぐり捨てて怒鳴る。

「レベッカ走れ! 絶対に感染を起こさせるな!」

 二人が勢いよくゾンビを追って走り出すのを私も慌てて追った。

 背後を確認すると興味を失くしたのかフレズベルクが飛び去って行く。

 いや、本当にそれだけだろうか。

 まるであの一回の攻撃は、ウンジョウさんの銃撃を妨害するかのようだった。

「区画内全てに非常事態宣言を出せ! 防護扉を手動で封鎖させろ! 絶対に感染者を出させるな!」

 ウンジョウさんがヘッドセッドに向けて怒鳴る。

 私達は搬入口からビル内部へ突入した。

 ウンジョウさんが背負っていたライフルを走りながら構える。

 搬入口から直結しているエレベーターホールに出るもゾンビの姿はなく、扉が開いている屋内非常階段へ進む。

 反響して聞こえたのは悲鳴だった。

 声の出所へ向けて一気に駆け出す。

 辿り着いたのは共同生活層の食堂だった。

 入り口は開放されていて、そこには何十人という人がいて、そしてその中心にゾンビが居て。

 飛び込んだ私達の前で、それは起きた。

 食堂の中心で、パニックに陥り逃げ惑おうとして人々の中心で、悲鳴に満ちた空間の中心で。

 ゾンビが一際大きな呻きを上げると共に、口から赤黒い液体を地面に吐き出した。

 一瞬、その正体が血液であると気が付けなかったのは、それが滝の様に大量に溢れ出したからである。

 その量故に、まるで個体の様に、質量を持つかの様に、重たく血が地面に落ちた。

 赤黒く染まっていくゾンビの周囲、その真ん中でゾンビは再び大きな呻き声を上げて。

 その身体を大きく跳ね上げるように仰け反らせて。

 そして、破裂した。




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