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クラウンクレイド  作者: 茶竹抹茶竹
【25章・救世とその方法/弘人SIDE】
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『25-1・CROWN CLADE』

【25章・救世とその方法/弘人SIDE】


25-1


 シルムコーポレーションの研究所を離脱した弘人は、桜に言われるがまま、施設入り口近くにあるバス停へと向かった。既にバスなど来なくなった世界で、その標識と屋根だけが付いた簡易な待合所は、バス停という場所として存在し続けていた。

 待合所の平たい椅子の上に、弘人は背負っていた桜をゆっくりと降ろす。降ろす際に、桜は苦痛に満ちた声と表情を見せたが、それでも先程よりは幾分かマシになっているようだった。


「祷達は?」


 桜がそう聞いてきたが、弘人は首を横に振る。桜が決めていた合流地点に、いくら待っても祷達の姿は現れなかった。

 シルムコーポレーションの建物からは黒煙が上がっていて、割れた窓から勢いよく炎が噴き出しているのが見えた。数回、爆発音がしている。燃え盛る建物の何処かに、姉がいるのだろうか、と弘人は思った。

 最悪の結末の可能性を、二人は口にしなかった。火災と聞くとどうしても、祷の魔法を連想してしまう。

 気を紛らわそうと、弘人は桜に聞く。


「桜、スマートフォンの電池って復旧できるか?」

「出来るわよ、それ位なら怪我人でもね」

「さっき、姉さんからマイクロSDカードを渡された」


 あの後、姉はどうなったのだろうか。そんなことを思いながら、弘人は姉に渡されたマイクロSDカードをそのケースから取り出して、ポケットに入れていたバッテリー切れのスマートフォンにそれを差し込んだ。

 桜が手を伸ばしてきたので、スマートフォンを渡す。桜がそれを握り締めて暫く待つと、スマートフォンのバッテリーが復旧したのがランプの点灯で分かった。

 しばらくぶりに起動したのを思い出す。使えない通信機器だと分かっていても、持ち歩く癖は消えなかった。


「これで良い筈」


 その言葉と共に、桜からスマートフォンを手渡される。やはり通信状況は圏外のままであった。画面を操作して何のデータが入っているのかを確認した。文書ファイルらしきそれを開いてみると数字と英語が並んでいた。グラフと長々とした英語の長文。謎の数列がおびただしく並んでいる。

 辛うじて読めた文脈を繋げていく。JMウイルスの文字があった。そして。

 

「ワクチンのデ-タかもしれない」


 弘人の言葉に、桜は驚いた声を出した。


「本当に?」

「……姉さんの良心を信じるよ」


 これを渡してきた意味が、あの時の言葉が。良心であったのだと弘人は思いたかった。

 振り返ってみたシルムコーポレーションの研究所が、再び爆発音を立てた。黒煙は収まる気配が無く、火災は更に拡大する可能性が高かった。

 弘人は道端に落ちていたカラースプレ-缶を拾ってくると、道路に大きく文字を書き始める。「イノリ」と書いて、大きく矢印を引く。道標の代わりだと、桜に説明する。それを書き終えて弘人はスプレー缶をその場に投げ捨てた。

 桜の事を背負って弘人は言う。


「桜、行こう」

「何処に?」

「このデ-タを元に、ワクチンを作れる施設か組織を探しに」


 桜を背負って歩き出すと、肩に回していた桜の腕に、強く力が入るのが分かった。

滑り落ちない様に、弘人はその身体を支え直す。

 この世界はまだ、終わったわけではないのだ、と弘人は思う。世界を救う鍵を、手にしているのかもしれないのだから。

 世界の終わりを定義するのは人間では決してなく、そして人間の終わりを定義するのも世界ではない。

 地面に描いた矢印の指す方向へと歩き出した弘人は、決して背後を振り返る事はしなかった。その姿は地平線の向こうへといつしか消えていった。



【25章・救世とその方法 完】



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