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ドラゴンは寂しいと死んじゃいます ~レベッカたんのにいたんは人類最強の傭兵~  作者: 藤原ゴンザレス
第五章 ドラゴンと新大陸

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桃龍騎士団の行方……

 アイザックは帝都の海軍事務所に間借りしている桃龍騎士団の施設でいつものように日報を書いていた。

 なにせ桃龍騎士団は騎士団とは名ばかり、悪魔と不良騎士などの変人の巣窟である。

 実務能力は著しく低い。

 この場合の実務能力は武力のことではない。

 事務仕事のことだ。

 騎士団の職務など、世界の多くの軍人と同じで会計や事務が業務の大半を占めるのだ。

 相談役のガウェインなど村長の事務仕事すらモタモタしている有様だ。

 アカデミーから官僚の卵を雇い入れることでなんとか破綻せずに済んでいるが、負担はアイザックに集中している。

 アイザックは騎士としてもエリートの教育を受けているし、実際アイリーンの部下としても事務仕事を担ってきた。

 そういう仕事は得意だ。

 なにせ今やクリスタルレイクはセシル派御用達の観光地。

 警備計画を毎日作らねばならない。

 たとえ悪魔がいるから計画などいらなくても書類は必要なのだ。

 そんなアイザックが警備計画の書類を捏造していると、カルロスがやって来る。


「おーいアイザック」


 なにか用事があるらしい。

 アイザックは先月の警備計画を丸写ししながら言った。


「どうした船長殿」


 もちろん軽口である。

 カルロスも「しかたねえやつだな」という顔をしていた。


「いや、クラーク家の奉公人が来ているぞ。アイザックに取り次ぎ要求している」


「は? 俺が家と絶縁状態なのは知ってるだろ?」


 正確には家名を名乗らせているので縁は切っていないが、季節の便りも出さない間柄である。

 それも仕方がない。

 地方騎士になったことや、その騎士も悪魔襲撃の責任を取って辞めたりしたことなどが問題だった。

 それらは家名に泥を塗り、親戚にまで迷惑をかけることばかりだ。

 絶縁されても仕方がないのだ。

 ただアッシュの子分として異例の出世を果たしたのは一族にとっても度肝を抜かれただろう。

 調査したり会談の場を設けるのは異常なことではない。

 だがアイザックは続ける。


「それに俺は半月後にはガードナーになる」


「あのな、たとえ貴族に婿入りしても実家と縁が切れるわけがないだろが。とにかく会え」


 カルロスは海賊という文化的に底辺の出自だが、僧侶でもあるしこういったときは常識人である。


「まったく面倒だな……すまんが通してくれ」


「おう。野郎ども! お客人を通せ!」


 カルロスは怒鳴る。

 廊下からドタドタという足音が聞こえる。

 海軍はこういう文化である。


「俺がいた方がいいか?」


「悪いがいてくれ……はあああああ~」


 アイザックはため息をついた。


「本当に嫌なんだな」


「嫌いなわけではないけど、実家は人に価値観を押しつけすぎるんだよ」


 これは決してアイザックの実家が異常なわけではない。

 それなりの家柄なら人生のレールが敷かれるのは当たり前である。

 ただクリスタルレイクの住民が数百年も先を行っているのだ。

 アイザックはもう一度ため息をついた。

 すると30歳くらいの男が入ってくる。


「アイザック様。お久しぶりでございます」


「なんの用だ?」


 アイザックは不機嫌を隠そうともしなかった。


「御館様がすぐに帰還されるように……と」


「今さらなにを言っても、俺はセシル様とアッシュ様について行くぞ。それにこのカルロス次期海軍提督殿もな」


 アイザックはさらっとカルロスの肩書きを盛った。

 男はカルロスの足の先から頭のてっぺんまでを眺める。

 その顔は「え、こいつが?」という驚きに満ちていた。


「そ、それでは御館様に桃龍騎士団団長の後任をクラーク家が任されるとご報告いたします」


「「は?」」


 これにはアイザックもカルロスも同時に呆れた声を出した。

 それこそ『なに言ってるの?』である。


「アイザック様は御領主様になられるとお聞きしておりますが?」


「いやいやいや、俺は絶対にクリスタルレイクから動かねえよ。メシ美味いし、友達いるし。酒場の仕込みもあるし! それになんで桃龍騎士団をてめえらが引き継ぐ話になってるんだよ!」


 アイザックは必死に否定した。

 焦っていたので口から出たのは、地元から出たくないヤンキーの理屈である。


「なにを言っておられますか! アイザック様は初代皇帝陛下の時代から存在する名家を受け継ぐのでありますぞ! 安心召されてください。我ら家中一堂までアイザック様に忠誠を誓っております。それに家柄からすれば当然ではございませんか?」


 これは『桃龍騎士団頂戴♪』もしくは、かの有名な『お前のモノは俺(略)』という意味である。

 だが理屈は通っている。

 一族のものが出世すれば、後任は同じ一族から選出されるのは珍しくない。

 むしろ派閥を固めるためにも当然の手法だ。

 だがアイザックはそれだけはできない。

 なにせ桃龍騎士団は悪魔とドラゴンと友達にならなければならない。

 それを為し得る器量が狭い世界で生きてきた一族にあるとは、アイザックにはどうしても思えなかった。

 そもそも、さすがのアイザックも勘当された実家が、今さら出てくるとは思わなかったのだ。

 どの面下げて出てきやがったといった具合である。

 アイザックはカルロスを見た。


(非常事態発生。こいつらマジで桃龍騎士団を乗っ取る気だ!)


 カルロスもアイザックを見る。


(了解。大至急会議を開く!)


 アイザックはアイコンタクトだけで意思疎通すると言った。


「まだ保留だと家に伝えてくれ。お前らもわかるだろう? 主家の当主はアッシュ様だし、桃龍騎士団はセシル様直属の騎士団だ。許可を得なければならん」


「かしこまりました。よいお返事がありますようお願い申し上げます」


 アイザックはため息をついた。

 使者は頭を下げると踵を返して出ていく。

 アイザックとカルロスはしばらく無言だった。

 アイザックのこめかみにいくつもの井桁マークが浮かぶ。

 アイザックは茶を口に含む。

 手が震えていた。

 アイザックはしばらく茶の香りを楽しむ。

 そして拳を振り上げて机を殴り……言った。


「バカじゃねえのあいつら! なんであいつら滅亡に突き進んでいるの!」


 栄光の道に見えるが、凡人には地獄でしかない。

 そもそも人外側に近い存在のアイザックですら数回は死にかけている道である。

 仮に桃龍騎士団を乗っ取っても彼らは何時間生きられるだろうか……という話なのである。


「あちゃー……」


 同じく人外側のカルロスもつぶやいた。

 この男も危ない橋を渡りまくっている。

 だからこそその危険性がわかるのだ。


「とりあえずこういうときは……」


 アイザックが言った。


「だな」


 カルロスも同意した。


「「アッシュさんに泣きつこう」」


 そう言うと二人は大急ぎでショートカットからクリスタルレイクに急いだ。

 それとほぼ同時刻、アッシュの畑仕事の手伝いをしていたレベッカたちはひくひくと鼻を動かした。


「なんだかアイザックお兄ちゃんとカルロスちゃんのにおいがします♪」


 レベッカが言った。

 アッシュは笑う。


「まさかあ。二人とも今日は帝都で働いてるよ」


「そうなのー?」


 レベッカはよくわからずにニコニコしながら尻尾を振った。

 だがレベッカの言ってたことは本当だった。

 土煙を上げて騎士が走ってくる。


「「アッシュさーん! 助けてー!」」


 きゅっとレベッカが首をかしげた。

 それを見て他のドラゴンも首をかしげる。

 アッシュも首をかしげた。

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