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ドラゴンは寂しいと死んじゃいます ~レベッカたんのにいたんは人類最強の傭兵~  作者: 藤原ゴンザレス
第五章 ドラゴンと新大陸

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セシル覚醒

 クリスタルレイクのアイリーンの執務室。

 レベッカは床にあぐらをかいたアッシュの足の上に座っていた。

 尻尾がぱたぱたと揺れる。

 顔も溶けそうなほどニコニコしている。

 どうやらご機嫌なようだ。

 久しぶりにアッシュを独り占めできて嬉しいのだ。

 ベルはハンカチを噛むと言った。


「きー! うらやましい!」


 室内で椅子に座っていたアイザックはベルに言った。


「ベル姐さん。そういうのいいですから」


「姐さんなんて……アイザック男爵様のいけず」


 親しいがゆえの軽口である。

 ちなみにあらゆるフラグは立っていない。

 アイザックは呆れた声を出す。


「からかわないでください。まだ爵位はもらってません。それにアッシュさんなんて侯爵様で司令官ですよ」


「まあ、そうですね」


 ベルはアッシュを見る。

 リラックスモードのアッシュはあくびした。

 するとレベッカもつられてあくびをする。

 とても新大陸の司令官とは思えないのんびりした姿だ。


「それで今日は俺の結婚の話なんですが……一応言っておきますが、俺たち2回目の結婚式ですからね!」


 アイザックが言った。

 笑顔だが口元が引きつっている。


「結婚式です♪」


 レベッカがバンザイをした。


「そう、それ! レベッカちゃん悪魔たちと動き回ってるよね! そこのベル姐さんも!」


 ベルはペロッと舌を出した。

 それを見てレベッカも真似をしてペロッと舌を出した。


「そこ、かわいい顔をしてごまかさない! 帝都の桃龍騎士団の詰め所に早馬が来ましたからね! 全部バレてますからね!」


『帝都の桃龍騎士団の詰め所』とは、セシルがでっちあげた桃龍騎士団の事務所である。

 わざと海軍との友好関係をアピールするために海軍の施設に間借りしている。

 そこにガードナー家が早馬で知らせを寄こしたのだ。

 つまりガードナー領でなにがあったのかは全てアイザックにバレている。

 井桁マークをこめかみに浮かべるアイザックにレベッカは言った。


「あのね! 悪魔さんと一緒にみんなで『おめでとう♪』してきたの!」


 レベッカは千切れんばかりに尻尾を振っていた。

 アイザックは怒るわけにもいかずプルプルと震えた。


「どうやって言い訳すりゃいいんですか! もうね!」


 アイザックがベルに向かって言った。

 すると部屋のドアが開き女性の声がした。


「いいじゃないか! そのまま言えば」


 そこにいた女性は一言で言えばボスキャラだった。

 室内だというのに羽根のついた山高帽を被り、意味もなく光る服の背中からは、さらに光り輝く作り物の羽が孔雀のように伸びていた。

 顔は白塗りでつけヒゲをつけている。

 男装をしたセシルだった。


「どうだろうか? この結婚式の衣装」


「相変わらず悪趣味の限りッスね。つか、どこの魔王だよ!」


 もはやアイザックも遠慮がない。

 親友(カルロス)の彼女に対する態度である。


「ふふふ。女の格好はここでならいくらでもできる。今は男装を楽しもうじゃないか! ぐわーはっはっは!」


 セシルは腰に手を当ててわざと男らしく大声で言った。

 そんなセシルを見てベルは言った。


「あ、セシル様。『扇情的な格好で外を歩くな』と苦情が出ております」


「ぐは!」


 ベルの攻撃。クリティカルヒット。


「な、なぜだ! なぜ世界は我を認めぬ!」


「セシル様は体の線を出しすぎなんです」


「ぐっはー! で、でもな、聞いて欲しい……」


 セシルはわなわなと手を震わせた。


「かわいい格好の方をしたんだ。鏡の前で……私だって女だからな。フリルとかヒラヒラとかリボンとか少しつけてみたかったんだ……」


 ちなみに全身が映るような大きな鏡は超高級品である。

 クリスタルレイクではセシルとアパレルメーカーのクリスの事務所くらいにしかない。

 だがその辺には一切触れず仄暗い目でセシルは続ける。


「そしたら……似合わなかったんだ……これが……鏡に映る痛々しい姿……あれは恐怖だった」


 セシルは顔もセクシー系なのでかわいい系は全く似合わない。


「というわけで今の路線はやめない! って、そうじゃない!」


 セシルは勝手に宣言するとドアを開ける。


「悪いクリス。入ってくれ」


 セシルはにやあっと悪い顔になる。

 クリスが室内に入ってきた瞬間、ガタンとアイザックが椅子から転げ落ちた。

 それはクリスだった。

 今までは村娘の格好ばかりしていた。

 その分、小物など自分で作る方にばかり偏っていた。

 だが今は貴族の娘がそこにいた。

 それもとびきり美しい娘が。


「あ、ががががががが!」


 驚きすぎてアイザックは言葉を失った。

 自分の嫁がかわいいのは知っていた。

 いい嫁さんもらったなあと思っていた。

 だがこれはできすぎだ。


「なにしてんだよ。おまえさん(・・・・・)


 クリスは勝ち誇ってニヤニヤしていた。

 口調がまだ庶民なのは別として、そりゃ勝ちである。

 女性の方の化粧も魔人級になったセシルが本気を出したのだ。

 セシルは言った。


「ふふふふ。私は考えた。自分がかわいくなるのは不可能! だったらクリスをコーディネートしてしまえばいいさと! この日のために腕を磨きまくったとも!」


 そんなセシルにベルが手を差し出す。

 セシルは無言で手を握る。

 妙な同盟が誕生したようである。

 アイザックの方は『余計な事をしやがって』と心にもない毒を吐く余裕もなかった。

 なにもかもができすぎだった。

 なにせアッシュも驚いていた。


「ふむ、アイザック。ドレスはこれでいいかな? よしじゃあ、次。アイリーン入れ」


 今度はアイリーンが入ってくる。

 いままでこの場にいる誰もがドレス姿を見たことがないわけではない。

 舞台衣装姿まで見たのだ。驚くことはない。

 だが変化はあった。

 まずアッシュがかくんと口を大きく開けた。

 レベッカが大きく尻尾を振る。


「うわーい! かわいー!」


 セシルの本気は凄まじかった。

 舞台の頃からその片鱗は見せていたが今回は本気だった。

 なにせ色気皆無、名誉男子と呼ばれた体育会系アマゾネス、アイリーンがかわいい格好をしていたのだ。

 セシルとベルは顔を見合わせる。

 そして両の手を挙げてハイタッチ。

 完全に同士である。


「ど、どうかなアッシュ?」


 コクコクとアッシュはうなずいた。

 アイリーンはにこりと笑った。

 こうして結婚式は近づく。

 そして……時代も動いていたのだ。

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